安倍政権による集団的自衛権の行使容認に当初は難色を示しながらも、連立与党に残ることを優先し、最後はあっさり閣議決定を了承してしまった公明党。

世間からは、「やっぱり最後は転んだか!」とか、「せめてもう少し抵抗してほしかったのに」といった“腰砕け批判”も相次ぎ、特に7月は山口那津男(なつお)代表が講演会やメディアなどで反論を繰り返すことに。

そんななか、注目されるのは党の実質的な母体である創価学会の反応だろう。

何しろこの問題では、5月17日に創価学会の広報室が見解を発表し、「私どもの集団的自衛権に関する基本的な考え方は、これまで積み上げられてきた憲法第9条についての政府見解を支持しております」と、集団的自衛権は行使できないという従来の憲法解釈を擁護する立場をキッパリと明言。

また、「したがって、集団的自衛権を限定的にせよ行使するという場合には、本来、憲法改正手続きを経るべきであると思っております」と、集団的自衛権の行使には憲法改正が必要との考え方を示す。

さらに、「集団的自衛権の問題に関しては、今後の協議を見守っておりますが、国民を交えた、慎重の上にも慎重を期した議論によって、歴史の評価に耐えうる賢明な結論を出されることを望みます」とダメを押す形で、公明党にくぎを刺しているのだ。

創価学会がここまでハッキリと政治的なメッセージを発するのは極めて異例なことだといわれているが、その方針を「無視」してまで自公連立維持の道を選んだ公明党の姿勢に、創価学会側はさぞやご立腹に違いない。

一部報道によれば、「創価学会婦人部」が行使容認に強く反発しているということだし、これはいよいよ「公明党vs創価学会」のバトルに発展か?

公明党は行使容認を事実上、阻止?

■ケンカなんて起こるワケない?

しかし、『創価学会と公明党 ふたつの組織は本当に一体なのか』(宝島社)や『創価学会』(新潮新書)などの著書がある、宗教学者の島田裕巳(ひろみ)氏に「ケンカ」の現状を聞いてみたところ、予想外の言葉が返ってきた。

えっ、公明党と創価学会? ケンカなんて起こるワケないじゃない? メディアはみんな公明党が転んだって言ってるけど、公明党の見解はまったく逆。彼らは集団的自衛権の行使を容認したなんて言ってない。それどころか、自分たちが自民党による行使容認を事実上、阻止したという立場なんだからね」

ええっ、それってどういうことなのか? 島田氏が続ける。

「自公協議で公明党側は集団的自衛権の行使に関する『新3要件』に修正を要求した。その結果、閣議決定の文言は、『他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合』という形に落ち着いたでしょう?

あの表現について、憲法解釈による集団的自衛権反対派の人たちは『“他国への攻撃で国民の生命、自由が根底から覆される明白な危険”なんて、そもそもあり得ないだろっ!』と、ツッコミを入れている。公明党の山口代表は、そういう現実的にあり得ない条件を修正案に盛り込んだことで、結果的に集団的自衛権は行使できないし、事実上『無力化した』という認識なんですよ。

それは、創価学会が示した見解とも大きく矛盾しないし、むしろ連立与党として公明党が閣内にいたからこそ、ほかの野党と違って自民党に対する一定の『抑止力』を発揮できたというのが彼らの考え方。

もちろん、連立与党を組む自民党をはじめ、公明党の外にいる人は、誰もそんなふうには思っていない(笑)。でも、少なくとも内向きにはそういうことになっているので、公明党と創価学会のケンカなんて今のところは起きようがないんです。

それに山口代表は、創価学会のオバサンたちには人気がありますから、今では婦人部も納得して、むしろ『よくやった』という話になっているんですよ」

衝突回避か、問題先送りなのか?

とはいえ、自民党側はそんなことはまったく思っていないはず。コレっていわゆる「同床異夢」状態ってことか……?

自民党は、公明党が抵抗を示しているペルシャ湾での機雷掃海や国連などによる集団的安全保障についても積極的な姿勢を見せているだけに、今後、閣議決定に基づく法案審議が始まれば、そうした自公のズレが今よりも具体的な形で表面化するはず。そうなったら再び、両者の間で火種が生まれるんじゃ……?

「もちろん、公明党のそうした認識は内側だけで共有されているファンタジーみたいなもの。将来、どこかの時点でそのズレが表面化するでしょう。ただ、自民党が関連法案の審議を秋の臨時国会でなく、来春の通常国会に延期したことで、その可能性も当面はなくなりました。

そもそもここ数年、池田大作名誉会長が表舞台に姿を見せなくなり、カリスマ不在の状況でポスト池田体制を模索している今、創価学会と公明党はどんな問題に関しても大きな決断を下せない、非常に微妙な時期にありますから」(島田氏)

うーん、ケンカが起きているのかと思ったが、衝突は回避されていた。しかし、悪くいえば問題を先送りしているようにも見える……。来春の国会審議の際、火種を生まないためには、今から水面下で両者はちゃんと話し合ったほうがいいのでは?

(取材・文/川喜田 研)