安倍首相と全国農業協同組合中央会(以下、JA全中)の対立が続く。
きっかけは、今年5月に政府の規制改革会議の作業部会がまとめた「農業改革案」。同案にはJA全中が全国699の地域農協を指導する「中央会制度」の廃止など、JAグループの根幹を揺るがす内容が盛り込まれていた。
これにJA全中の萬歳章(ばんざいあきら)会長が猛反発し、徹底抗戦を宣言。その結果、政府が6月に閣議決定した「規制改革実施計画」からは「廃止」の文字が消え、「自律的な新たな制度に移行する」という表現になった。それでも政府は来年の通常国会に「農協法改正案」を提出し、中央会制度を抜本的に見直す方針だ。
一方のJA全中は7月25日、自己改革案の検討を8月から本格化すると発表。政府主導の改革を牽制(けんせい)する構えを取るが、
「JA全中はこれまで既得権にあぐらをかいて農家のことを考えてこなかった」
そう嘆くのはフォトジャーナリストの堀田喬氏だ。
「俺が都内の一流ホテルで張り込みをしていたとき、そこを定宿にしている萬歳会長がレクサスの最高級車に乗って入ってきた。あれで本当に長靴を履いた地方の農家の気持ちがわかるのか。
今のJAはまるで金融屋。農家に金を貸し、トラクターをどんどん買わせてきた。政治に対しても、票で自民党をコントロールできると思ってきた。安倍首相はそれに反発しているんだ」
結局はどちらも国益なき泥仕合
確かに、JA全中は農協法によって全国の農協の指導や監査を行なう権利を持ち、その見返りに約77億円もの賦課金を非課税で集めている。
「安倍首相は地方に行くと、農協に頼らないで独自に先進的な農業に取り組んでいる農家をしょっちゅう視察している。農林水産物の輸出1兆円を目指すなか、『農業はJAに頼らなくてもできる』ということをアピールしたいんだよ」(堀田氏)
一方、元大臣秘書官のO氏は、安倍首相がJA解体を目指す理由をこう分析する。
「本当の狙いは農業改革ではなく、TPPとセットにすることで、自分が長期政権を築くために必要な、アメリカからのバックアップを得ることです。これは小泉政権の郵政民営化と同じパターン。同時に〝既得権益集団に立ち向かう自分〟というイメージを世間につくろうとしている点でもまったく同じです」
結局、首相にもJA全中にも「国益」という観点は欠落しているようにも見える……。
「農協のシステムには弊害もありますが、日本の食の安全には貢献してきた。このまま乱暴にTPP参加とJA解体を決めてしまうと、中国の期限切れ肉とアメリカの遺伝子組み換え野菜の肉野菜炒めを食べるしかない国になりますよ」(前出・O氏)
そんな意見もあるほど、先行きは危惧されるが、それぞれの思惑で国民目線の歩み寄りにはほど遠い。食の安全を守りながらの農業改革でないと困るんですが!