地元・沖縄の反対を押し切る形で辺野古沖のボーリング調査が強行されるなど、11月の県知事選に向けて風雲急を告げる沖縄の米軍基地問題。

政府はこれまで一貫して移転先が「沖縄県内」である必要性を主張し、辺野古への移設にこだわってきた。

民主党政権時の鳩山友紀夫首相が普天間基地の移設先を一度は「国外、最低でも県外」と打ち出したが、結局は「辺野古」に方針転換している。このとき、多くの人たちは「鳩山はアメリカの圧力に屈した」と考えたが、普天間基地の「県外移設」は本当に不可能だったのか? 鳩山首相の方針を潰(つぶ)したのは本当にアメリカの圧力だったのだろうか?

これについて鳩山氏本人が、7月下旬、那覇で行なわれた「これでいいのか日本!」というシンポジウムに出席し、「普天間基地の移設は最低でも県外、できれば国外への移設が望ましいという方針を自ら打ち出しながら、私の力不足で果たすことができず、沖縄の皆さまに心からおわびしなければならない」と謝罪。

その上で、当時、本来なら首相を支えるべき官僚たちが、現実には「県外移設」を「妨害」していた実態を明らかにした。

日本の外務官僚が米政府高官に「鳩山政権にもっと圧力をかけてくれ」と要請し、さらに、県外移転先の候補を探すよう指示した鳩山氏に対し、「普天間基地の移転先についてアメリカからは『沖縄から約110km圏内』という条件が出されている」とウソの情報を伝え、県外移設の断念を迫られたというのだ。

「後でわかったことですが、実際にはアメリカから、そのような条件はまったく示されていなかったのです……」(鳩山氏)

もちろん、当時のアメリカが既定方針としての辺野古移転を支持していたのは事実だろう。だが、普天間基地の県外移設に関する可能性はまともに検討すらされなかった、というのが実情のようなのだ。

アメリカの本音が米軍機関紙に!

だとすると、「辺野古移設」へのこだわりは「アメリカの圧力」ではなく、むしろ官僚組織も含めた日本側の強い意向だったことになる。つまり、地元の反対を押し切ってまで辺野古移設を強行しようとしているのは「米軍基地を今後も沖縄県内に維持したい」日本側なのだ。

「沖縄米軍基地の存在を中国への抑止力ととらえることで、日本の安全保障政策は一種の『思考停止』に陥っているのです」

そう指摘するのは、元防衛庁官僚で、新外交イニシアティブ理事の柳澤協二氏だ。

「海兵隊のグアム移転計画を見てもわかるように、沖縄への基地集中は危険だから分散しよう、というのは米国のトレンドです。それに対して日本政府は『米軍が日本にいることによって、日本が攻撃されれば米軍にも被害が出るから、結果的に抑止力につながる』という、まるで米軍を人質に取ったかのような理論に固執している。米軍はそれを一番嫌っているのです」(柳澤氏)

とはいえ、尖閣諸島をめぐる「有事」を考えれば、沖縄米軍の存在は大きい気もするが、それについて興味深い記事があると柳澤氏は言う。

「昨年2月、米軍の機関紙である『星条旗新聞』に『誰も住んでいない岩の防衛ために、俺たちを投入しないでくれ』という記事が載ったのです。これがアメリカの本音だと思います。

実際、尖閣諸島の有事に海兵隊が投入される可能性はほとんどないと言っていいでしょう。経済的に深いつながりを持つ現在の米中が、尖閣諸島をめぐって本気で地上戦にまで乗り出す可能性はまずありません。

そもそも『抑止力』というのは、『相手が攻めてくれば、それ以上の損害を与える能力と意思があって成り立つ』ものですが、今述べたように米国に『投入の意思』がないので、中国に対する抑止力とはなり得ない。ところが、こうした虚構とも言える抑止力への妄信が、一種の思考停止状態を招き、結果的に沖縄米軍基地の固定化につながっているのです」

オスプレイを佐賀空港に移転してもいい?

自民党政権と官僚の罪とごまかしはまだある。

「政府はこれまで『海兵隊の一体運用』を理由に、普天間基地の移設先は沖縄でなくてはならないという主張を貫いてきましたが、今になって普天間のオスプレイを一時的に佐賀空港に移転してもいいと言いだした。これでは『移転先は沖縄でなくてはならない』と言い続けてきた根拠を政府自らが否定したことになります。

結局、米軍基地の負担を沖縄という『辺境』に押しつけ続けることで、本土に住む日本人の目から問題を見えづらくし、沖縄という『少数』の苦痛を、多数の幸福のための『気の毒なコスト』として扱ってきたのです」(柳澤氏)

中国の先制攻撃から逃れるため、沖縄からの本格的な撤退を真剣に検討しているアメリカと、その米軍基地の存在を「抑止力」と妄信し、なんとか沖縄につなぎ留めたい日本政府。その溝を埋めるため、政府は巨額の駐留費を全面的に負担し続け、国民にウソをついてでも沖縄の米軍基地を維持し、その負担を一方的に沖縄に押しつけ続けてきた。

長年、膠着(こうちゃく)状態が続く沖縄米軍基地問題の背景には、そんな日米間のすれ違いと、微妙な駆け引きが暗い影を落としているといえそうだ。

(取材/川喜多 研)

■週刊プレイボーイ37号「短期集中連載 そうだったのか!沖縄問題 第3回 米軍と日本政府が沖縄についてきたウソを暴く!」より