米軍は早ければ2020年、沖縄を含めた日本から撤退する――。11月の県知事選に向けて沖縄の米軍基地問題が風雲急を告げる中、そんな衝撃的な内容の本が先日発売された。
著者はアフガニスタンで実戦を経験した元米陸軍情報将校で、現在はアメリカでミリタリーアドバイザーとして活躍する飯柴智亮(いいしばともあき)氏。米国内の政府・軍、および軍産複合体関係者に取材した『2020年日本から米軍はいなくなる』(講談社+α新書)のなかで、米軍の基地政策を解説している。
沖縄撤退が事実なら、安倍首相が強行している集団的自衛権や日米安全保障体制、そして普天間や辺野古など沖縄の米軍基地問題も根底から覆(くつがえ)されることになるが、では今後、沖縄米軍はどうなるのか? 日本の安全保障環境にどんな影響や変化が起こるのか? 本人を直撃し最新の情報とともに分析してもらった。
飯柴氏が「日本から米軍がいなくなる」と考える理由は主にふたつ。ひとつは財政赤字改善のための「軍事費の削減」。もうひとつはアメリカの「仮想敵」、すなわち中国の先制攻撃圏外に下がることで、米軍が直接被害を受けるリスクを減らす「アウトレンジ戦略」だ。
冷戦終結後、「世界の警察官」を自任してきたアメリカだが、それに伴って国防予算が急増した。
「米国の国防費は2001年に1062億ドルだったものが、2010年には6909億ドルと大きく膨らんでいます。アメリカ以外の国の国防費を総計しても約4500億ドルですから、これがいかに大きな負担かがわかります」(飯柴氏)
そのためアメリカは、国防予算を段階的に削減する方針で、可能なら3000億ドルまで減らしたいと考えているという。
となると、海外に展開している米軍の縮小、撤退も当然だ。イラクからは2011年末に撤退してるし、アフガニスタンからも2016年末で撤退予定。その先に在日米軍の縮小・撤退もあるというわけだ。
そして、この在日米軍撤退でポイントになるのが、前述の「アウトレンジ戦略」。沖縄は中国に近く、「先制攻撃圏内」にあるため、アメリカはホンネでは米軍を沖縄から引き揚げたいと思っているというのだ。
「中国軍がまだ弱かったときは、米軍も余裕で沖縄にいられたのですが、近年は中国軍の空海戦力、弾頭ミサイル攻撃能力が急速に増している。その状況でこのまま米軍が沖縄に集中していると中国軍の攻撃を受けたときに非常に危険なのです。そこで今、米軍は沖縄に集中しすぎた戦力を、中国軍の第一撃から逃れられるよう各地に分散し、リスクを減らそうとしているのです」(飯柴氏)
中国の脅威が増すほど撤退は加速
昨年から米軍は新たな再編計画に基づき、沖縄に駐留する海兵隊のグアムやオーストラリアへの撤退を開始。将来的に沖縄に残るのは司令部機能と、最小単位の遠征部隊である第31海兵遠征隊(31MEU)のみになる予定だという。
「最近、普天間基地の空中給油機KC130が本土の岩国基地に撤退しました。その際、米軍関係者から『沖縄の基地負担軽減』という言葉がありましたが、あれもタテマエにすぎません。『沖縄の負担軽減』と発表しておけば、『米軍は沖縄を気にかけている』というパフォーマンスになるわけです」(飯柴氏)
また、7月には普天間基地のオスプレイを九州の佐賀空港に暫定的に移動し、自衛隊のオスプレイ部隊と共用する話が持ち上がった。これも中国軍の沖縄攻撃に対するリスク分散という流れのなかで出てきたものだという。
「それを日本政府が『沖縄の基地負担軽減』と称して政治的に利用したのでしょう。しかし、佐賀への移転は米軍が難色を示したため、いつのまにか自衛隊のオスプレイ配備、という話にすり替わったようです」(飯柴氏)
皮肉なのは、中国の軍備増強、特にミサイル攻撃力や航空戦力の充実といった「脅威」が増すほど、「在日米軍撤退」の流れが加速するということだ。
「中国海軍の空母が3隻に増える、航続距離4000km超の中国空軍戦闘機が2000機に増える、あるいは台湾が中国の手に落ちる、などの条件がそろえば、中国による脅威は増し、米軍はより真剣に日本からの撤退に動くことになるでしょう。その場合、嘉手納空軍基地の戦力はグアムとフィリピンのクラーク基地に分散し、辺野古の新基地に配備される予定のヘリコプター部隊はフィリピンに下がると思います」(飯柴氏)
中国の軍事力拡大に「在日米軍の存在」で対抗したい日本側の思惑からすれば正反対のベクトルだが、そうした日米のすれ違いが「中国に最も近い」沖縄で顕著に表面化し始めているというワケだ。
だが、となると別の疑問が浮かんでくる。仮に沖縄米軍の日本本土への移転、あるいは海外への撤退が、中国のミサイルや航空戦力攻撃に対するリスク分散なら、その射程圏内にある辺野古の新基地は本当に必要なのか?
「現時点では、もちろん必要です。理由は日本が造ってくれて、米軍は1ドルも出さなくていいからです。もし、辺野古基地の建設が全額アメリカ負担なら、財政状況から考えて普天間基地をそのまま使うでしょう。
米軍は沖縄からの撤退を進める方針ですが、仮に戦力の大半をアウトレンジに下げたとしても、『有事』に備えて基地自体は維持しておきたい。なので、今のように基地の建設費や維持費は日本が全額負担してくれて、仮に米軍が撤退しても、その基地を自衛隊が守ってくれるのがアメリカにとっては理想的な形なのです」(飯柴氏)
日米安保で日本は米軍に守られていると思っていたのが、今後は自衛隊の任務が「米軍基地の留守を守ること」になりかねないのだ。
(取材/川喜多 研)
■週刊プレイボーイ37号「短期集中連載 そうだったのか!沖縄問題 第3回 米軍と日本政府が沖縄についてきたウソを暴く!」より