イギリスからの分離独立を問う、スコットランドの住民投票は19日、反対派の勝利で幕を閉じた。しかし、その影響はイギリス国内のみならず、世界の独立を求める他の地域にも及んでいるという。

スペインカタルーニャ地方バスク地方、ベルギーフランデル地方イタリアベネチア、さらには中国ウイグル自治区など、世界各地で起きている「独立運動」がスコットランドの動きに刺激され、一気に活性化しはじめているのだ。

「心配されるのは、民族問題などで独立志向を持つ地域で、住民投票に向けたデモなどの具体的な行動が次々とドミノ倒し的に起こる危険です。チュニジアの民主化運動から始まった『アラブの春』のような、あるいはそれ以上に大きな波になる可能性すらあります」

そう語るのは外務省キャリア官僚S氏だ。

スペインからの分離独立を求めるカタルーニャでは今月11日「スコットランドに続け!」と、州都のバルセロナで180万人を集める大規模なデモが行なわれ、カタルーニャ州政府は今年の11月9日に独立の可否を問う住民投票を行なうと一方的に宣言。スペインの中央政府はこれを認めないものの、住民の80%が投票の実施を支持しているという。

だが、S氏は日本への影響という意味ではスペインやベルギーが抱える民族紛争よりも、むしろ中東や中国に注目すべきだと指摘する。

「仮に中東で混乱が広がれば、原油や天然ガスの価格は上昇し、ガソリン価格がリッター200円を超えても不思議ではない情勢ですね。さらに気になるのが中国で、ウイグル自治区やチベット自治区は元から独立の機運が高いエリアですから、スコットランドでの盛り上がりが『飛び火』する可能性は大きい。もちろん、これらの地域では住民投票が行なわれることはなく、当然、その前に中国共産党が潰(つぶ)すでしょう。

ただ、それをきっかけとして中国国内のあちこちで民主化運動が過熱し、これに弾圧を繰り返すと、天安門事件、あるいはそれ以上の事態に発展してしまうかもしれない。それを防ぐためのガス抜きとして中国が意図的に反日ムードをあおる可能性は十分にあり得ます」(S氏)

エネルギー資源を巡る思惑と駆け引き

また、注目したいのが、スコットランド独立においても鍵となった「エネルギー資源」と「独立運動」の関係だ。

スコットランド独立運動における「北海油田」の存在がそうであったように、世界各地で起こっている「独立運動」の原点が、いわゆる「民族問題」だったとしても、そうした独立の動きが現実味を持つためには自立を可能にする「経済力」が絶対に欠かせない。そして、その最も強力な後ろ盾となるのが石油、天然ガスなどのエネルギー資源だ。

しかも、近年の技術革新によって新たな天然資源が発見されたり、また、シェールガスのように技術革新で採掘可能な資源が生まれたりしたことで新たなエネルギー資源が開発され、その存在が各地の「独立運動」に影響を与えているという。

例えば、前出のウイグル自治区には近年、石油、天然ガス、石炭がそれぞれ中国全体の埋蔵量の2、3割近い量があることが明らかになってきた。また、エネルギー資源以外にも金属や宝石、レアメタルなど多くの天然資源に恵まれている。

この豊かな天然資源の存在こそ中国がウイグル自治区を絶対に手放せない最大の理由である。逆に独立を希望するウイグルの人にとっては、この資源が「独立実現のための貴重な糧(かて)」、そして「自分たちの資源を中国に吸い上げられている」という不満の源泉にもなっている。

ちなみにこのウイグル自治区や、その隣の西トルキスタン、ウズベキスタン、カザフスタンなど、天然資源に恵まれた中央アジア一帯は、“ユーラシア大陸のへそ”ともいわれ、米ソ冷戦の終了後、ロシア、アメリカ、西欧、中国、インドなどの大国が互いに激しく牽制(けんせい)し合う、地政学的にも非常に重要な地域となっている。

こうしたエネルギー資源、天然資源の存在が、一国あるいは一地域の「独立運動」をあっという間に飛び越えて、その後の大国間での「天然資源の囲い込みゲーム」へと、いや応なしに拡大していく可能性がある。

スコットランド独立運動の余波は、まさに世界を動かしつつあるのだ。

■週刊プレイボーイ40号「スコットランドに続くのはウイグル?カタルーニャ?沖縄!?」(本誌では、沖縄で盛り上がる独立問題についてもリポート!)