年金制度を維持するために欠かせない「年金積立金」に、安倍政権がとうとう手をつけ始めた。そこで“改革”のターゲットとなっているのが、GPIFである。
「私はGPIFの改革を極めて重視しています。できる限り早く、ポートフォリオ(資産構成)の見直しを行ないたいと考えています」
9月19日、安倍首相は都内での講演で、アベノミクスが掲げる3本目の矢の成長戦略として「GPIF改革」を取り上げ、こう強調した。
その1週間後には、塩崎恭久(やすひさ)厚労相も閣議後の記者会見で「(GPIFの)基本ポートフォリオを前倒しで見直すという安倍晋三首相の意向もある。先送りするつもりはまったくない」とコメント。
こうした政府首脳の発言を受けて、日経平均株価は軒並み上昇。円安に加えて、GPIF改革によるポートフォリオ見直しへの期待を市場が「好感」したからなんだとか。
だが、そもそも「GPIF」ってなんなのか? そしてなぜ、安倍政権は「GPIF」の改革に強い意欲を示し、株式市場はその動きに敏感に反応しているのだろうか?
「GPIFとは、厚生労働省が所管する『年金積立金管理運用独立行政法人』のことです。国民年金や厚生年金といった、公的年金の『年金積立金』を管理、運用している機関で、英語名の『ガバメント・ペンション・インベストメント・ファンド』の頭文字を取ってGPIFと呼ばれています」
そう教えてくれたのは、今年4月までGPIFの運用委員を務め、現在、慶應義塾大学ビジネス・スクール准教授の小幡績(おばたせき)氏だ。
日本の年金制度は「賦課(ふか)方式」という仕組みで成り立っている。これは、今働いている現役世代が高齢者の年金を支えるという考え方だ。しかし、少子高齢化が急速に進むなか、人口の少ない現役世代が、増え続ける高齢者の年金を支え続けるのは不可能だ。
「その不足分も、一部を補うためにこれまで積み立てられた『年金積立金』を運用して収益を上げる仕組みとなっています。この運用をしっかりとした独立の組織で行なうために、2006年に独立行政法人としてGPIFが厚生労働省の下に設立されました。
英語名で『ファンド』とあることからもわかるように一種の政府系ファンドですが、特筆すべきはその資金規模で、昨年末時点での運用額は約130兆円に上ります。あまり知られていませんが、『世界最大の投資ファンド』と言ってもいいでしょう」(小幡氏)
130兆円でも年金を支えきれず…
ちなみに、ヘッジファンド(大規模な資金でハイリスク・ハイリターンの運用をする海外の投資組織)の代表格として知られるジョージ・ソロスが率いるソロス・ファンドの運用資産は約2兆円といわれ、資産運用会社大手のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの運用資産は約73.5兆円だから、GPIFが運用する額がいかに大きいかがわかるだろう。
安倍政権が発するメッセージに、「GPIF資金の流入」を期待する株式市場が敏感に反応するのも、まさにその規模の大きさゆえなのである。
ただし残念ながら、この130兆円でさえ、急激な高齢化に直面する日本の年金制度を支えるには圧倒的に足りないのだという。前出の小幡氏が語る。
「130兆円は本来積み立てておくべき額の1割から2割程度なのです。これで将来の年金制度が支えられるかといえば、正直、焼け石に水でしょう。それでも130兆円という巨額の積立金が存在する以上、これを有効活用しない手はありません。そして、積立金の資産運用の成否が日本の年金制度の“余命”を左右する大きな要素でもあります。
安倍政権は今、将来の国民生活に大きく関わってくる積立金について、投資先の配分構成であるポートフォリオを変更しようとしています。それが今回のGPIF改革と呼ばれるものです」
なるほど、その思惑はわかったものの…運用、投資、ヘッジファンドと、なにやら危なっかしい単語が並ぶ。景気のいい話をぶちあげて、なけなしの貯金がパーなんて話はそこら中で聞くけど、大丈夫なのか?
(取材/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ42号「」オレたちの年金が“アベノミクスの帳尻合わせ”で消失する!」より(本誌では、さらにこの改革が行き着く先の危険性を詳説!)