アベノミクスによる年金改革の肝として注目される「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)。約130兆円もの年金積立金を運用する、世界最大の“投資ファンド”だ。

GPIFの改革は、先月、政府首脳陣がポートフォリオの見直しを強調した発言をしただけで、日経平均株価が軒並み上昇するほど市場に強い影響力を持っている。では、安倍政権が改革に意欲を見せるのはなぜか?

その狙いはズバリ、GPIFの巨額資金を日本の株式市場へと流し込み、それで株価の維持を図ろうという、いわば「株価のドーピング」にほかならない。その理由はこうだ。

大規模な金融緩和による政府主導の円安誘導で、なんとか株価をつり上げてきたアベノミクスだが、このところの消費増税の反動に加えて、輸入するエネルギー価格の上昇など、円安のネガティブな要素が表面化して、その雲行きが怪しくなりつつある。

そこで、アベノミクス維持のために目をつけたのが、公的年金の「虎の子」である年金積立金だ。現在は運用先全体の「12%」と定められている国内株式の比率を、「20%以上」にまで拡大させるのだという。つまり、年金積立金を国内の株式市場に注ぎ込み、海外の投資家による日本株への投資をあおることで株価を上昇、維持させようとしているのだ。

今年4月までGPIFの運用委員を務め、現在、慶應義塾大学ビジネス・スクール准教授の小幡績(おばたせき)氏は次のように解説する。

「確かに、従来のGPIFによる運用は、厚生労働省の方針もあり、比較的リスクを取らない『安全運転』でした。日本国債を中心とした国内債券がポートフォリオの60%と定められている今の状況は、運用の基本である『分散投資』の観点からも見直す必要があると思います。しかし、国内株の比率を20%以上にまで増やそうというのは、どのような理屈から言ってもナンセンスな話です」

運用の基本から逸脱した“異常なこと”?

国内株への投資比率を増やすことがなぜナンセンスなのか? 小幡氏が続ける。

「そもそも世界市場の中での日本株というのは、比率でいえばたかだか8%程度です。ところがGPIFのポートフォリオでは現状、国内株が12%に対して外国株が12%ですから、日本株と外国株の比率は同じとなっています。

世界全体で見ればわずか8%の日本株が、GPIFが保有する全株式の半分を占めているというのは、すでに相当偏(かたよ)っているのです。つまり、日本株の保有率が明らかに大きいのです。ここからさらに日本株を増やすというのは運用の常識から考えたら、あり得ません。分散投資という運用の基本から逸脱した“異常”なことです。

実は、運用とはリスクをどこまで取るのか、あるいは取らないのかという判断に尽きるわけで、そのスタンスはさまざまです。例えば、僕自身は自分の資金を投資するときには自称“ウルトラリスク派”です(笑)。もし、130兆円が自分のものだったら、部分的にはそれなりにリスクも取って、新しい分野への投資にチャレンジし高い運用益を狙いたいと思います。

しかし、130兆円は国民のお金です。それは国民自身の意向に基づいて行なわなければなりません。現状では、国民の意向は『安全優先』だと思いますし、GPIF改革は必要ですが、リスクを取りまくるように変えるのは妥当ではありません。

しかも、リスクを取るとしても、『日本株への投資比率を大幅に増やす』というのは、日本株の世界における位置づけを考えても、分散投資の意味からも運用のプロフェッショナルなら誰もが首をかしげること。

安倍政権がそれをあえて進めようとする以上、そこにはなんらかのバイアスがかかっていると見るべきで、純粋な運用とは別の目的があるとしか考えられないのです。GPIF改革は、『巨額の年金積立金を利用した株価操作』だと見る向きがあるのは、ある意味、当然のことでしょう」(小幡氏)

資産運用のプロにとってもあり得ない手法で、年金制度の存続が危険にさらされていいのだろうか?

(取材/川喜田 研)

■週刊プレイボーイ42号「」オレたちの年金が“アベノミクスの帳尻合わせ”で消失する!」より(本誌では、さらにこの改革が行き着く先の危険性を詳説!)