直接選挙で国家としての独立の是非が決まる。スコットランドの住民投票は歴史的な政治プロセスでした。その影響は今後、世界各地に波及していくことでしょう。

心から興奮しました。

世界中の注目を集めた、スコットランド独立の是非を問う住民投票。公正で透明性のある選挙を通じ、国家の未来を決める。これこそ民主主義の本質的なあり方です。

9月18日に行なわれた選挙の直前、スコットランドの首都エディンバラでホテルを経営する友人と話をしました。彼は独立に反対の立場で、「いざ独立が決まれば、ホテル経営に関わる登記(とうき)や税金のシステムなどが変わるだろう。独立後に何か混乱でも起きれば、通常営業できるかどうかさえわからない。“独立コスト”は誰が負担してくれるのか」と懸念を抱いていました。

自国の未来を決める選挙だけに投票率は84.6%と高く、年齢でいえば25歳から34歳の若年層に独立を支持した人が多かった。一方、65歳以上の高齢者は7割以上が反対票を投じたといいます。また、性別で見ると、男性よりも女性のほうが独立に反対した割合が高かったというデータもあります。

ドラスティックな変化を好まず、保守的な傾向のある高齢者層・女性層と、変化を求めファナティック(熱狂的)になりやすい若年層・男性層。肌感覚としても、もしぼくが投票権を持っていたら……と自分のこととして考えても納得のいくデータです。

今回の選挙を、内心ヒヤヒヤしながら見ていたのが中国政府です。スコットランドが独立した場合、台湾、チベット、新疆(しんきょう)ウイグル、そして香港といった中国の主権や統一に関わる“諸問題”を刺激することは明らかでした。

今年6月にイギリスを訪問した中国の李克強(りこくきょう)首相は、記者会見の場で「“連合国として統一したイギリス”を支持する」と、事実上の「独立反対」ともとれる発言をしました。選挙の後は、中国政府は「内政不干渉」を理由に具体的なコメントを出していませんが、中国共産党の意向に沿った報道をする国内メディアは「賢明な結果だった。スコットランド選挙の結果は中国の想定に符合する」といった論調のプロパガンダに終始していました。

スコットランド独立の波は香港へ

中国政府が特に警戒するのが、かつてイギリスの植民地で、17年前に中国に返還された後は「一国二制度」をとっている香港への波及です。スコットランドの独立選挙を見て、「住民投票によって未来を変えられる」という政治のダイナミズムに香港の市民や大学生たちが触発されたことは間違いありません。

今年8月31日、2017年から実施予定の香港行政府トップを決める普通選挙の候補者を、中国政府に“承認”された“愛国的”な人物に限定するという決定がなされました。これを受けて、香港では民主派勢力を中心に、中央政府とそれに服従する香港政府への反発が拡大。9月22日には約1万3000人の大学生が授業をボイコットし、両政府に対して真の民主主義を求めています。今後とも、北京と香港の関係をめぐって予断を許さない状況が続くことでしょう。

イギリスは中央集権国家です。イングランド以外のカントリ――スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにもそれぞれ首都があるにもかかわらず、実質的にはほぼすべての国家機能や経済拠点、繁栄地帯がロンドン周辺に集中している。今回のスコットランドの選挙は、ロンドンが4つのカントリーから成るイギリスという「国家」をどのように統治していくのか、という問題があらためて浮き彫りになりました。

国家統治に永久不滅の解などない。中央集権と地方分権のバランスは政治にとって持続的に重要な課題です。ロンドンと同様、東京にあらゆる資源が集中する日本という国に住みながら、今回の選挙を人ごとだといえるなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員。『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(集英社)など著書多数。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/