10月20日、政府は北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査の実態を把握するため、今月中に調査団を派遣する方針を固めた。

北朝鮮は当初、「夏の終わりから秋の初め」には結果報告をするとしていたが、一方的に「調査には全体で1年程度かかる」との連絡があったため、調査団が訪朝して北朝鮮側に直接説明を求めるという。

しかし、すでに事態は北朝鮮の思惑通りに進んでしまっている可能性が高い。韓国外交部の関係者がこう説明する。

「北朝鮮の狙いは、まずアメリカとの国交正常化。そして金第一書記の叔父、張成沢(チャンソンテク)氏を昨年末に粛清して以来、冷え込んでしまった中国との関係改善です。ここ最近、拉致再調査をエサに、日本に急接近していたのもそれへの布石だったのです」

どういうことか?

「日朝関係が改善して制裁解除になれば、日本から支援の物資や資金が入ります。すると、その援助を流用して北朝鮮が核開発を進めたらまずいと、アメリカも対北交渉のテーブルに座るようになる。

中国も国境を接した北朝鮮が親日的になるのは大変と、中断していた石油供給を再開するなど、やはり関係改善に動く。このように、北朝鮮はしたたかに計算しているのです」

だが、そこで日本にとって困った事態が――。

日本は当て馬にされた

「拉致被害者の帰国において、北朝鮮のシナリオでは、1回目はまず日本人妻や遺骨などを日本に帰し、制裁解除などの見返りを得ようというものでした。ところが、安倍首相と日本の世論の期待は北朝鮮の予想よりもはるかに強く、最初から拉致被害者の帰国を強く望むものだった。

それを知って困った北朝鮮は、9月初旬に予定していた第1回調査結果公表の引き延ばしにかかったんです。当然、日朝交渉は停滞する。そこで、代わりに北朝鮮が選んだのが南北対話だった。10月4日の、最高幹部3名の電撃訪韓はその第一手というわけです」

その3人とは、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長、崔竜海(チェ・リョンヘ)国家体育指導委員会委員長、金養建(キム・ヤンゴン)朝鮮労働党統一戦線部長。彼らは仁川(インチョン)アジア大会の閉会式があった10月4日、異例の電撃訪韓で会談を行なっている。

この事態に、自民党関係者はこう憤る。

「日本は当て馬にされたということ。北朝鮮は日本を利用して、米中、さらには韓国からも支援を得ようとしている!」

慌てているのは安倍首相だ。テレビ朝日コメンテーターの川村晃司氏がこう語る。

「今年末の消費税率10%の決定や、来年の通常国会での集団的自衛権容認に伴う安保関連法案審議といった不人気な政策をやり遂げ、支持率が下落しきったところで、自ら訪朝して拉致被害者を連れ帰り、再び内閣支持率をV字回復させる。そこで総選挙を打って勝利し、首相続投というのが、安倍さんのシナリオでした。ただ、本当にその“拉致カード”を切れるのか? 北朝鮮との交渉を見るかぎり、怪しくなってきました」

拉致カードを切れず迷走中!

では、今後の落とし所はどこなのか。首相官邸に出入りする、ある官僚がこうささやく。

「首相周辺から、来年年明けの国会の冒頭で、解散、総選挙を打つべしという声が上がっています。“拉致カード”が切れないなら、強行採決を通して人気が落ちる前に解散・総選挙するしかない。そうすれば、首相の4年の任期は一度リセットされ、政権も長期化できるから。

しかし、来春は統一地方選、5月、6月は20本近い安保関連法案を採決しないとならない。となると、総選挙をやれるタイミングは来年2月しかない。そこで解散、選挙をしてしまうか否か。首相は今、迷いに迷っているはずです」

しかもここにきて、さらに早期の総選挙を予測する声も。

「秋の臨時国会は11月30日まで。その直前に解散すれば、年内に総選挙となる。この時期であれば、12月に決める予定だった消費税率10%を先延ばしにし、その是非を国民に問うという名目が立つ。野党第1党の民主党でさえ、衆院300小選挙区のうち候補が決まっているのは75区ほど。自民勝利が確実なだけに、年内解散をやるべしという声が首相周辺からはちらほらと上がってきています」(前出・川村氏)

女性閣僚の相次ぐ辞任に対する任命責任問題でも追い込まれており、福島、沖縄と続く県知事選の行方次第でますます右往左往…。

韓国、アメリカ、中国も関わってきた、北朝鮮と安倍政権の神経戦にも似たバトル。当面、「落としどころ」は見えない。