今年も残すところ早2ヵ月。ハロウィーンも終わり、お次はクリスマスの晩に彼女と部屋でケーキを頬張りながら、なけなしの給料で買ったジュエリーをプレゼント――。そんなサプライズをもくろむ男子諸君に残念なお知らせだ。

この夏、「田中貴金属」「サマンサタバサ」などのジュエリーブランド数社が、指輪やネックレスの価格を15%程度値上げした。断行を余儀なくされた、あるブランドの女性店員が話す。

「これまでは企業努力で価格を抑えてきたんですが、材料の仕入れ値が上がっていて、仕方なく一部の商品を値上げしました」

背景には何が――。

「世界的な金の相場価格の高騰が原因として挙げられます」と語るのは、金地金などを扱う業者の幹部社員だ。

「金の相場は、99年に1g800円台という最低価格をつけてからは上昇を続け、昨年2月の5000円台をピークに、現在は4200円ほどになっています。高騰の要因はいくつもありますが、ひとつに新興国の需要増が挙げられます。かつては、インドが世界で一番金を買っていましたが、2000年代に入り、中国が経済力をつけてきたことで需要が増え、肩を並べるようになった。そしてついに去年、中国がインドを抜いて世界一、金を買う国になりました」

前出の幹部社員は続ける。

「金は世界中で年間3000tほど生産されるのですが、そのうち年間1000t以上を中国が買い、世界中で生産される金の約半分を中国とインドがさらう形になります。しかし、彼らは買っても売らずにため込んで、また買い足しますから、市場に出回る金は少なくなり相場も押し上げられるわけです」

ケーキの値上げも不可避!

こうした“買い占め”を背景にした金相場の上昇が、ジュエリーブランドの材料調達コストを押し上げさせたとみられる。

さらに、「これに“便乗値上げ”が重なった」と分析する者もいる。銀座にある老舗宝飾店の経営者が、こう話す。

「ジュエリーは、材料の相場価格に加工賃、さらにはブランドのプレミアがついた値付けです。よって、価格の妥当性はなかなか見えづらい。指輪に何gの金が含まれているかで、その部分の価格は相場に応じて算出可能ですが、そこから先の価格はブランドに委ねられます。

今回の値上げは、夏頃から各業界で起きている値上げラッシュの状況を横目に『ウチの値上げも受け入れられるはずだ』という判断によるものである可能性は十分にあるでしょう」

そして、ケーキの値上げも不可避な状況だ。昨夏の猛暑と酪農家の離農による人員不足で、国内は深刻な生乳不足に陥り、品薄となったバターの価格が高騰している。都内にある洋菓子店の店長が頭を抱える。

「バターは1年ほど前から3円、5円と小刻みに値上げされ、増税を機に10円上がりました。卵、小麦粉、生クリームなど原材料費は全体で約2割上がって正直ツラい。かといって、定番商品を値上げするとお客さんが離れるかもしれず、利益を削ってそのまま販売しています。

ただ、ちょっと言いにくいのですが……クリスマスケーキについては年に1回の季節商品なので、コストアップ分を転嫁して値上げしても、一般のお客さんにはわからない場合がほとんど。例年は2500円で出していたケーキを、材料は変えずにデザインを少しゴージャスにして2900円で売ろうかと思っています。すみません」

彼女との聖夜は金に代え難いと割り切るしかないか……。

(取材/頓所直人)