安倍新内閣で「地方創生担当 内閣府特命担当大臣」に任命された石破茂氏

趣味の鉄道やプラモデルについてマニアックに語ったり、ニコニコ超会議(ニコニコ動画が主催するイベント)へ出演したり。その言動がとかくネットで話題になり、SNSで拡散したりすることも多い石破茂氏。自民党で最も“オタク教養”が豊富とされる彼が、安倍新内閣で「地方創生担当 内閣府特命担当大臣」に就任した。果たして、石破氏のオタク的センスは地方創生に活かされるのか? 石破大臣本人に聞いた。

―まずは、石破大臣の趣味であり、世代を問わずファンが多い鉄道。でも、今までの鉄道って地方財政の見直しでは、真っ先にカットされるものの代表ですが、鉄道ファンならではのお考えは?

石破 これからの時代に合った鉄道のメリットとして挙げられるのはふたつ。ひとつは省エネルギー。もうひとつは高齢者が使いやすいこと。これからさらに高齢化は進みます。どんなに車の自動運転技術が発達しても、80歳や90歳の方々が日常で運転をするのは危ないでしょ。

―確かに。アクセルとブレーキを間違ったお年寄りがコンビニに突っ込む、といった事件が報道されていますよね。でも、赤字路線の存続は厳しいのでは?

石破 なんで鉄道だけが黒字でなきゃいけないのかと。道路は「黒字だ! 赤字だ!」なんてめったに言われない。高速道路はたまに言われるけど、一般の国道とか県道が儲かったという話はめったに聞かないでしょ。

―同じ交通インフラなのに、鉄道が冷遇される理由とは?

石破 鉄道はね、ローカル線なんかもそうだけど、初期投資をものすごくしてるわけ。だから、今の時点で儲かってないと即「廃線だ!」となってしまうんです。それに、鉄道って今は税金の投入がものすごく少ない。新幹線でも地元が多く負担しているし、地方の第三セクターも「赤字だからやめろ!」と言われる。でも道路でそういう話はほとんど出てこない。

―もしかして、大臣は自動車がお嫌い?

石破 いや、自動車も大好き。サニークーペとかブルーバード510とか。やっぱり一番強烈な印象なのは、初代サニークーペ! 当時はカローラとライバル関係で、100cc刻みで排気量争いをしていたんですよ。それでね、カローラの「プラス100ccの余裕」ってキャッチコピーがね、それはもう……。

―大臣、とりあえず鉄道トークをお願いします!

石破 例えば、鉄道を廃線にして、その横に道路を走らせる。これで黒字かといったら、やっぱり赤字なんだよ。だったら鉄道をやめる積極的な理由ってなんなんだろうと。

ブルートレインが大復活?

■地方を元気にする鉄道の活用法とは?

―では、大臣の考える鉄道で地方を盛り上げるプランは?

石破 現在、最も“非日常”の観光を体験できるのが鉄道なんです。その非日常性を最大限に生かしたのが九州を走るクルーズトレイン「ななつ星in九州」。観光の極意ってのは、「今だけ、ここだけ、あなただけ」なんですよ。それが、鉄道の持ってるポテンシャル。飛行機や車は「いつでも、どこでも、誰でも」だからね。

―「ななつ星in九州」は現在、予約が取れないほどの大ヒットです。ヒットの理由は?

石破 いろいろありますけど、まず“世界最高の列車を作ろう!”というスピリット。どこにでもある列車ではない。世界にここにしかない列車を作ろうというね。

―そんなプレミアム感を押し出した寝台列車を走らせると、どんな地方活性化が起きますか?

石破 クルーズトレインは、どこに停車するかがダイヤ改正ごとに変わります。とにかく速く走らなければいけないという列車じゃありませんから。そうすると、全国各地のみんなが停まってほしいわけ。

だから自治体は「クルーズトレインが停車する街にしよう!」と一生懸命頑張るわけです。そうすると、鉄道が街を活性化する。ちっちゃな誰も知らないような駅だって、“クルーズトレインが停車する街”というのはウリになるから。ウチの米、野菜、肉、酒、魚、食べてみてくれってなる。停車駅が自治体の顔、つまり一種のサテライトオフィスとして機能していくわけですよね。

―JR東日本や西日本もクルーズトレインに参入するそうですが。

石破 それは大歓迎なんですけどね。ただ、「ななつ星」と同じようじゃつまらんでしょ。

―大臣ならではのプランを、ぜひ!

石破 やはり、私としては昔のブルートレイン。それも20系を走らせてくれないかなぁと(満面の笑みで)。大きな声じゃ言えないけどね。

―もう、言っちゃってますけど! どうして昭和30年代から40年代が全盛だった列車に復活してほしいんですか?

石破 あの時代、地方の若者は受験も就職も、新婚旅行もブルートレインでした。確かに「ななつ星」みたいにキラキラしたのもいいんですよ。でも、それだけじゃないでしょ。

―今、大臣の目が、とてもキラキラしています……。

石破 ブルートレインの昭和テイストの外観と内装、そして乗ったときのなんともいえない香り。あの香りとともに、自分の昭和30、40年代が蘇(よみがえ)るんです。思い出がすべて。われわれ50代や60代、70代の方々で「クルーズトレインもいいけど、あの20系にもう一度乗りたい!」って人はすごく多いと思うんですよ。

よそ者・若者・バカ者が地方を救う!

■ブルートレイン復活の問題点とは?

―でも20系のブルートレインを復活するには、それなりの資金はもちろん、施設、整備体制、そして人員も必要になってくるのでは?

石破 確かにお金もかかるし、夜中に列車を走らせるわけだから人員の確保も大変でしょう。はっきり言って効率が悪い乗り物です。でもね、こういう夢みたいなものはお金じゃ買えない。それは逆に言えば、お金をいくら出してもいいという人はいるんですよ!

僕だって昔、ブルートレインのB寝台に乗って、個室じゃないから他人のイビキがうるさくて眠れなかったり、財布をスラれたことが2回もあったりしたけど、それも全部楽しい思い出なんだよ。

―非日常な要素が観光でウケるのは「ななつ星」を見ていればよくわかります。しかし、整備や人員で非合理な部分が多いブルートレインで収益を上げるのは難しいのでは?

石破 日本の個人資産の6割は60代以上が持っているといわれています。ヨーロッパでは退職してから高齢で亡くなるまでの間にほとんどの方が貯金を使い切るそうです。日本の場合はリタイアしたときから亡くなるまでほとんど同じ額のお金を持っている。そんな60代以上の方々が青春時代の思い出に浸れて、楽しくお金を使ってくれるプラン。そのひとつがブルートレインの復活だと思いますね。

―なるほど!

石破 あと、サニークーペも復活してほしいね!

―ただ、昔の自動車は現在の安全基準に適応しませんよね?

石破 そういう言い訳が一番ダメなんですよ! メーカーの方と話していても「昔の車を復活するには、安全基準がクリアできない、生産ラインはもう閉じてます」って話になる。でも、仮にハコスカ(3代目スカイライン)が復活したら「1000万円出しても欲しい」っていう中高年は絶対にいるはずです。そのために安全性や合理性、環境基準をクリアさせることも日本の技術力なんじゃないんでしょうか。

―クルーズトレインで観光する非日常性。そしてブルートレインや往年の名車を再生産するような非合理性。このふたつの要素がこれからの地方経済には大切だ、というわけですね。

石破 もちろんそれだけではないが、そんな夢のある話も必要でしょ。そして、この非合理性と非日常性を地方に持ち込めるのが「よそ者」と「若者」、そして奇抜な発想をする「バカ者」です。でも地方の住人はどうしても異質なものを排除してしまおうとするので、そこが課題となります。

通信インフラの拡充が地方を変える!

■よそ者・若者・バカ者が地方を救う!

―00年代以降、地方に大型複合施設が増えた一方、商店街のシャッター化が加速しました。

石破 それも全国どこでも同じように発展しようとした結果、と捉えることもできますよね。私の好きな大田区・蒲田の商店街はいい意味で昭和テイストが強調され、ほかの地域と差別化できウリにもなってます。逆に近未来な雰囲気をアピールした商店街があってもいい。それを手助けできるのが、いわゆる「よそ者・若者・バカ者」なんだと思うんですよ。

―なるほど。一方、マスメディアの本社が東京に集中し、なかなか地方の情報は伝わらないです。

石破 でも、今ではネットがあります。例えばニコニコ超会議。これを鳥取の砂丘でやれば、今まで観光では訪れなかった若者が鉄道に乗っていっぱい集まるし、ネットで視聴するユーザーも多くいるので地方にスポットが当たります。

―通信インフラの充実がポイントになりますね。

石破 象徴的な成功例が、徳島県の神山町です。ここは光ファイバー網の整備が行き届いているので、多くのITベンチャー企業がサテライトオフィスに使用しています。

―巨大な古民家を住居兼オフィスとして活用でき、しかも家賃は通信費込みで10万円以下。このライフスタイルに憧れる若いIT技術者は多いです。

石破 そこなんですよ。首都圏は通勤で往復2時間は当たり前。とても生産的じゃない。でも、地方なら職住近接が簡単です。これは、若い世代に魅力的だと思いますよ。

―しかし、先ほどの大臣のお話にもありましたが、地方の地元民とよそ者との間には軋轢(あつれき)が起こりがちですよね。

石破 受け入れ側である地方の方々は多少の食い違いは目をつぶり、よそ者側も「俺は東京のクリエーターだ!」って顔をしない。一番大事なのはお互いの作法を学ぶことでしょう。

私が防衛庁長官時代にイラクへ自衛隊を派遣したときに隊員たちに徹底してもらったのも、現地の文化・習慣・宗教を学ぶことでした。これがイラク派遣の成功した大きな理由のひとつだったと思います。

石破大臣の考える地方創生とは?

■ズバリ! 石破大臣の地方創生とは?

―ところで、大臣の出身は鳥取県。ネット上では「鳥取にスタバはないけど、砂場はある」とか「日本で47番目に有名な島根です」とか、鳥取や島根は自虐的なネタで盛り上がっていることが多いです。こういう自虐アピールってアリですかね?

石破 自虐ネタは一時的には盛り上がるかもしれないけど、それは広がりを持ちません。私の地元で「鳥取砂丘によく行く!」って人はほとんどいない。地元の人が、地元の良さに気づかないの。これは寂しいですよ。私なんか、鳥取砂丘の日暮れの風景は日本一美しいと思っている。やはり大事なのは、どこの地方あれ、まずは地元の人に愛される観光地を目指す。それでこそ、よそから人が来てくれる。これが基本だと思います。

―現在の「地方創生担当 内閣府特命担当大臣」という肩書は、農林水産大臣や防衛大臣みたいな直属の省庁がありません。地方創生という大プロジェクトを行なうには直属の部下が少ないのでは?

石破 大変ですよ。今までの基準でいったら大変です。でも、「地方から日本を変えようぜ!」って人たちと仕事をするには今のように自由度が高いポジションのほうがいい。

地方創生は、今までの価値観を逆転させるのが本質です。今まで「ダメだダメだ、やめようぜ!」と言われてきたけど、本質的に魅力があるものを再生させることが地方創生なんですよ。それは農業であり林業であり漁業であり。そして鉄道、ブルートレインも。

一般に非合理的で非現実的で「時代遅れ」「アナログ」と言われているようなものの価値を逆転させる。それには「よそ者・若者・バカ者」の力が必要です。一方で最先端のネットの力も利用する。読者の皆さんにも参加してほしいです。

石破茂1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、民間企業勤務を経て86年の衆議院選挙にて初当選。200 7年に防衛大臣、08年に農林水産大臣を歴任。今年9月に国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当に就任した。趣味は鉄道、プラモデル。「プラモは忙しくてなかなか作れないけど、説明書を読んでいるだけでも楽しいんだよ」(石破)

(取材・文/直井裕太 撮影/村上庄吾)