『永年敗戦論』の白井聡氏と『東京プリズン』の赤坂真理氏。この国の指導者たちには「守るべきもの」があるのだろうか? 『永年敗戦論』の白井聡氏と『東京プリズン』の赤坂真理氏。この国の指導者たちには「守るべきもの」があるのだろうか?

辺野古への基地移設問題を争点とし、明日、投開票が行なわれる沖縄県知事選。結果次第では今後の日米関係にも影響が出かねない大事な選挙だが、注目すべきはそれだけではない。

この選挙には戦後の日本が抱える問題が凝縮されているーーそれは何か。戦後日本を考える上で必読の書、『永続敗戦論』の著者で政治学者の白井聡氏と、『東京プリズン』を書いた作家の赤坂真理氏が語り合った。

PART1は、「沖縄が米軍基地を引き受けることはアジアの平和に貢献している」という日米安保村の理屈を、沖縄の人たちは断じて受け入れていないという論を展開。それに続き、沖縄県知事選の争点、そこから見えてくる本土の歪(ゆが)みをあぶり出す。

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―そこで11月16日の沖縄県知事選挙に注目したいのですが、今回は普天間基地の辺野古移設を認めるかどうかという、今や本土の選挙では期待できないほど明確な争点があります。

白井 今回の沖縄県知事選では共産や社民だけでなく、保守系の人たちまでが自民党を除名処分になっても、普天間基地の辺野古移設に反対する翁長(おなが)前那覇市長を支持する構図になっている。

彼らは一致団結して何と戦おうとしているのか? それこそまさに僕が「永続敗戦レジーム」と呼んでいるものなんですね。

アメリカに対しては「敗戦国」として盲目的な従属を続けながら、その一方で国内やアジアに対しては「終戦」という言葉にすり替えて「敗戦」を否認してきたのが戦後の日本。

その矛盾した態度を検証せず、むしろ守ろうとするが故に、結局はアメリカへの「敗戦」が際限なく続く……というのが「永続敗戦レジーム」です。

今回の県知事選でいうと、政府・自民党に屈し、普天間基地の辺野古移設受け入れを承認した現職の仲井眞(なかいま)知事が永続敗戦レジームを象徴する存在ですから、そういう意味でこの選挙は何と戦うのかが非常にハッキリしている。

政治的最先端地域になりつつある沖縄、「劣化」が進む本土

―国政選挙でも地方選挙でも今や明確な「争点」がなく、野党も頼りないから投票しようにも「選択肢」がない。有権者が選挙で「民意」を示せない本土とは大違いですね。

赤坂 それはある意味、デモクラシーが機能しているのは、もはや沖縄だけという言い方もできますでしょうか?

白井 そう、沖縄は政治的には日本の最先端地域になりつつある。他方、本土は止めどもない「劣化」が進んでいます。

3・11の後、世の中の流れを見ていて、僕が一番あぜんとさせられるのは、この国の「保守」を自称する人たち、安倍首相でも与党自民党でも誰でもいいんだけど、そういう人たちが、現実には何も守っていない、あるいは守るべきものを持っていない、ということなんです。

あの原発事故でこれだけ国土を放射能で傷つけてしまって、僕はそれに対して、自分の体が傷つけられたかのような痛みを感じるけれども、それでも彼らは原発を再稼働すると言っている。そういう感覚は一体なんなのだろうと。

赤坂 つまり、彼らは国民も国土も守っていないし大事にもしていない。一方、国民もそれに対してもはや怒りを感じてない。原発事故が起こった福島の県知事選でもあんな状態だし。

白井 だから、そこで『東京プリズン』のモチーフがすごくよくわかったのです。あの小説は明治以降、この国を近代国家としてまとめ上げた「神話」が敗戦という形で失われた後、どうやって守るべきものを明瞭な形で再構築するのか、どうやってそれを発見するのかという話でしたよね。

赤坂 そう、あの作品はそれがテーマだったんです。同じ思いで新書の『愛と暴力の戦後とその後』も書きました。それは戦争でも津波でも原発事故でもいいんだけど、そうした「大量喪失」を乗り越えるためには、アメリカの南北戦争後にリンカーンが行なった「人民の人民による…」みたいな、犠牲になった人も報われるような「高次」の物語がないといけないと思っていて、それはなんだろうと探していたんだけど、これがなかなか見つからない……。

そして先ほども言ったとおり、何かを納得もしくは説得しようとしてつくる物語は、往々にしてヤバイんです。事の本質を変質させる。そこに突き当たって、もう執筆が袋小路、っていうときもありました。「物語にする」っていいことに思われがちだけれど、落とし穴でもあります。私が今のところ得心できた言葉は、言葉以前かもしれない、古代祭祀の「哭(なき)」のようなものだけです。東北に対してあふれる「がんばろう」だって、なぜそんな無神経なことが言えるのかわからない。

●PART3は明日配信予定!

●白井聡(しらい・さとし) 1977年生まれ、東京都出身。早稲田大学、一橋大学大学院、日本学術振興会特別研究員等を経て、現在、文化学園大学助教。『永続敗戦論』(太田出版)は今年の石橋湛山賞を受賞した。今年は『日本劣化論』(笠井潔氏と共著、ちくま新書)を発表

●赤坂真理(あかさか・まり) 1964年生まれ、東京都出身。2012年に発表した小説『東京プリズン』(河出書房新社)で自身のアメリカ留学体験をもとにして戦後の日米関係を考察したことで話題に。今年は『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)でより幅広く戦後史を考察した

●週刊プレイボーイ47号「沖縄県知事選直前対談 白井聡×赤坂真理」より

(取材・文/川喜田 研 撮影/本田雄士)