辺野古への基地移設問題を争点とし、いよいよ本日、投開票が行なわれる沖縄県知事選。結果次第では今後の日米関係にも影響が出かねない大事な選挙だが、注目すべきはそれだけではない。
この選挙には戦後の日本が抱える問題が凝縮されているーーそれは何か。戦後日本を考える上で必読の書、『永続敗戦論』の著者で政治学者の白井聡氏と、『東京プリズン』を書いた作家の赤坂真理氏が語り合った。PART3では、知事選後のこの国の行く末に斬り込む。
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―ここまでの話をまとめると、この国の大地が原発事故によって痛めつけられているのに「保守」を名乗る政治家も国民も何も守ろうとしていないし、怒りや悲しみという感情も麻痺(まひ)してしまっている。そういう状況が本土には存在する。一方、沖縄では米軍基地を“受け入れてない”上に、辺野古の自然を壊して新基地を造ることで怒りがさらに爆発している。
白井 おそらく本土の人間も、60年安保あたりまでは日本に米軍が存在していることの異常さを感じていたと思うんです。ところが高度成長による経済的な豊かさに目くらましされて、いつしかそのゆがみが見えなくなったし、忘れてしまった。
だから、自国の領土に他国の軍隊がいる異常さがわからないし、怒りもない。放射能で国土を汚されても「原発を止めたら経済が停滞する、それでいいのか?」と言われて黙ってしまう。
一方、沖縄は1972年に日本に返還されたので高度成長を経験していないし、その後も一方的に米軍基地負担を押しつけられてきたから、この異常な状態が見えている。怒りの感情が残っているから、今こうして闘おうとしているけど、本土はそれを人ごとのように眺めている。
今も多くの基地を抱え、米軍に占領されているかのような沖縄の姿は、本土の日本人が忘れてしまった自分たちのかつての姿であり、実は今も自分たちの身に起きていることの縮図なのです。つまり、沖縄の問題は本土の問題なのだということに本土の人が気づけるかが、ポイントでしょうね。
赤坂 まずはそこをつなげないとダメですよね。
沖縄県知事選後の動向に、日本の民主主義の「生死」がかかっている
―仮に今回の知事選で翁長(おなが)氏ら辺野古反対派が圧倒的な勝利を収めたとしても、実はそれも出発点でしかない。政府が簡単に辺野古の基地建設を撤回するハズはないので、両者は選挙後も間違いなく激突する。そうした動きに本土がどう反応するかですが……。
赤坂 これまでと同じように、人ごとのまま、まるで反応しないというのも怖いよね。
白井 でも、さすがにこれは反応せざるを得なくなっていくと、僕は思いますけどね。
―菅官房長官は何度も繰り返し「辺野古への移設はすでに決定事項で、県知事選挙の争点にはならない」という立場を繰り返していますから、仲井眞(なかいま)知事が承認した辺野古沖の埋め立てを本当に翁長氏が止められるのかという問題もあります。
白井 日本の司法は信用できないので、仮に新しい県知事が基地建設中止の仮処分申請をしても、裁判になれば「仲井眞前知事が一度下した受け入れの判断が有効」だという判決が出るのは目に見えている。
あとは恫喝(どうかつ)ですよね。「辺野古への移設に反対するなら危険な普天間基地が固定化されるだけだ。沖縄県民がそれでもいいなら勝手にしろ」みたいな言説が飛び交う可能性はあります。
―ただ、仮に民意の支持を得た翁長陣営が知事選で勝っても、結局、何も変わらなかった、つまり沖縄ですらダメだとなれば、それはもう日本の民主主義の「死」というほかないわけで。結局、そのツケは今後、本土の人間が払ってゆくことになるのでしょうね。
白井 そうなればもう日本の「劣化」は止まらない。
赤坂 もしかすると、これが最後のチャンスかもしれない。本当の最後ではないかもだけど、当面、最後……。
―そう考えると、11月16日投開票の沖縄県知事選挙と、その後の辺野古に関する動きは、単なる「沖縄の米軍基地問題」という枠を超えて、日本の今後にとっても大きな意味を持っていると言えそうですね。
白井 そう。だからこそ、これは「沖縄が気の毒」とか「沖縄に申し訳ない」といった人ごとじゃない。われわれ、日本人すべての問題なのです!
●白井聡(しらい・さとし) 1977年生まれ、東京都出身。早稲田大学、一橋大学大学院、日本学術振興会特別研究員等を経て、現在、文化学園大学助教。『永続敗戦論』(太田出版)は今年の石橋湛山賞を受賞した。今年は『日本劣化論』(笠井潔氏と共著、ちくま新書)を発表
●赤坂真理(あかさか・まり) 1964年生まれ、東京都出身。2012年に発表した小説『東京プリズン』(河出書房新社)で自身のアメリカ留学体験をもとにして戦後の日米関係を考察したことで話題に。今年は『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)でより幅広く戦後史を考察した
●週刊プレイボーイ47号「沖縄県知事選直前対談 白井聡×赤坂真理」より
(取材・文/川喜田 研 撮影/本田雄士)