なんの争点も存在しないのに突然吹き始めた「解散風」。表向きには“消費増税先送り解散”などといっているが、安倍晋三首相が抱える本当の理由は明らかに違うという。

小泉政権時代から安倍首相を近くで見てきたベテラン国会議員のA氏が解説する。

「一般に報道されているように、来年に控えるいろいろな政治日程から逆算してみると、もし解散するなら年内しかないという結論が導き出されます。

北朝鮮からの拉致被害者に関する調査報告も国民をガッカリさせる内容になる可能性が高いし、原発再稼働も集団的自衛権も賛否が大きく分かれる政治課題ですからね。さらに連立を組む公明党は来年4月の統一地方選に近い日程での総選挙をイヤがっているので、消去法で今しかない。

でもそれは“解散するなら”という前提でタイミングを考えた場合であって、別に自民党や公明党の総意として解散したいわけではないんだよ」

それはどういうことか?

「自民党はわずか2年前に政権を奪還したばかりです。民主党政権時代に浪人生活をしていて、まだ経済的に回復できていない自民党議員も実は多い。だから解散すべしなんて意見が党内から多数意見として発生することはあり得ないのです。今回の解散話はあくまで安倍さん本人が発端。その意向を受けた周囲が政治日程を考え、消去法でタイミングを相談したというのが真相だと思います」

A氏はさらに興味深い証言をしてくれた。

「安倍さんはね、小泉(元首相)さんに強い憧れとコンプレックスを抱いているんですよ。

安倍さんは超がつく大物の政治家に、直接触れ合うことなく現在に至っています。父親(安倍晋太郎元外相)の死後、議員になったときにはもう角さん(田中角栄元首相)も竹下(登元首相)さんも全盛期ではなかった。小沢(一郎)さんも敵側に回っていた。身近に接したカリスマ政治家は小泉さんだけなのです。

昔の映像を見ればわかるのですが、安倍さんは小泉さんの前に出ると直立不動になってしまうほど、強い敬意と憧れを抱いていたんです」

安倍首相が抱える小泉コンプレックスとは?

過去の写真を探してみると、確かに今の安倍首相からは想像できないほど緊張した様子のものが多く見つかった。

「安倍さんが官房副長官だった第1次小泉内閣のときには北朝鮮への電撃訪問に同行した。その後、超異例の若さで党幹事長に抜擢(ばってき)してもらい、スター政治家に育てられた。さらに誰もが予想できなかった鮮やかなタイミングで決行した郵政解散総選挙では歴史的な大勝利を目の当たりにし、80%を超える驚異の内閣支持率も体感した。

しかも官房副長官時代の安倍さんが『憲法は日本の核武装を禁じていない』という趣旨の発言をして問題になったときも、小泉さんは責任を追及せず、度量の大きさも見せられた。

このような経緯で強い憧れと尊敬の念が育ち、第1次安倍内閣時の挫折ではコンプレックスも生まれた。だから人気と任期(首相在職期間)の両面で小泉さんを超えたいというモチベーションが安倍さんを支配しているのです」(A氏)

一方の安倍首相は、靖国神社参拝についてアメリカ政府から「失望した」と言われたとき、衛藤晟一(えとうせいいち)首相補佐官が「われわれのほうがアメリカに失望した」という趣旨の発言で加勢してくれたのに、その発言を撤回させてしまった。客観的に見て器の差は明らかだが、小泉さんを目標にしているのは確かなようだ。

これに自民党幹部関係者、T氏がつけ加える。

「安倍内閣は消費税率が8%になったときも支持率が落ちなかった。閣僚の連続辞任も乗り越えた。あとは小泉郵政解散のごとく意外性のある解散を打って勝利すれば、憧れの“小泉師匠”に追いつけると考えているのでしょう。確かに、今回の総選挙で勝てば来年の自民党総裁選は無風でクリアできる可能性が高く、首相在職期間でも小泉さんを超えられる。

でも小泉さんと決定的に違うのは、解散の情報が外部に漏れちゃっていることです(苦笑)。私の知る限り、小泉さんは連立のパートナーである公明党にも、飯島勲(いいじまいさお)秘書官にさえも相談しなかったはずです。だから外部に情報が漏れず、解散時のインパクトが増し、カリスマ性が生まれたのです。

しかし安倍さんの場合は周辺に相談しすぎて、党内からも連立相手の公明党からも信頼していた新聞記者からもダダ漏れになってしまった」

安倍首相が小泉さんに憧れるのは自由だ。でも、世論を二分するような政治課題ではなく、「消費税率アップを延期することの是非」という弱い理由で解散するのはいかがなものか。なにより、安倍首相の個人的な目標の実現に付き合わされる日本国民が不幸ではないか?

■週刊プレイボーイ48号「意味不明!安倍解散 本当の動機は『小泉さんを超えたい』だけだった」より