今回の総選挙では、与党・自民党が敗れるイメージはなかなか浮かばないが、その暴走を止めるためには、野党の頑張りにも期待したいところ。しかし……。
第1次安倍内閣時から安倍首相のことをよく知る大物議員、D氏があきれ顔でこう話す。
「増税の延期について、経団連などの経済団体は反対の態度を表明していた。なのに民主党の海江田(かいえだ)代表は解散について『どうぞおやりなさい。われわれは受けて立つ』なんて言うし、枝野(えだの)幹事長も『早く解散していただければありがたい』とか言っちゃった。せっかく舞い降りたチャンスだったのに第一声でフイにした。ああ、この人たちは政局を読む感性もなければ危機管理能力も皆無だなと思ったね。
政治はキレイごとだけではない。安倍首相はなりふりかまわず勝負に徹して勝ちにきている。解散の大義がないなんて批判があるけど、それこそが狙いなんだよ。争点がなければ浮動層はどこに投票していいかわからずに投票率が下がる。マスコミも面白い切り口が見つからないから報道しにくく、選挙への関心度も上がらない。
ただでさえ師走(しわす)の選挙は投票率が下がる。都会は忙しい人が多いし、雪国は投票所に行くのさえ、ひと苦労。でも自民党と公明党の支持者たちは雪だろうが嵐だろうが槍(やり)が降ってこようが投票所に行く。組織票を持つ政党が勝つ。過去を振り返ってみても解散総選挙が最も多く行なわれているのは12月なんだよ」
強大な勢力を持つ与党が全力で勝ちにきているのに、野党がキレイごとを言っていては勝ち目はない。みんなの党も消滅したし、次世代の党や生活の党も消える運命としか思えない。維新の党に一縷(いちる)の望みを託すしかないのか?
命運を賭け維新・橋下は独裁者になりきれるか
自民党の元大物議員、F氏の見解は意外なものだった。
「実は橋下さんの決断次第では維新の躍進はあり得るよ。前回の総選挙の前、一時は300議席以上も獲得するのではとの予想が出るほど維新へのは期待は大きかった。勢いを失ったきっかけは、ワケのわからない現職国会議員を5名集め、東国原(ひがしこくばる)英夫(そのまんま東)氏らも加えて公開討論会を行なったとき(12年9月)だよ。
わざわざ自分からネガティブキャンペーンを打ったようなもので、自民も民主もうれしすぎるサプライズだったよね。
例えば、2年前に自らが落選しそうだから民主党を離党して維新に入って維新の支持率を暴落させた松野頼久(よりひさ)議員は、今度は維新の人気がないから民主党にすり寄る動きを見せている。そのような節操のない連中は即座に切り捨てて、もう一度橋下さんが前面に出て闘えば十分に第2党になれると思う。そうなれば自民党の暴走に歯止めをかける役割を担えるかもしれない。
橋下さんもこのままおとなしくしていると、亀井静香さんや渡辺喜美(よしみ)さんのように、自分が作った党を乗っ取られてしまうよ。ここはひとつ、独裁者になるくらいの気合いで頑張れたら面白いけど、今のところその気配は感じられないね……」
安倍さんは今、アスリートのゾーン状態に近い?
そうなると、やはり自民党の有利は動かないのか。ベテラン議員、B氏はこう語る。
「安倍さんは今、テニスの錦織圭選手のように、一種のゾーンに入っている気がします。10月31日、日銀は追加の金融緩和を発表した。日銀の狙いは少しでも株価を上げて増税を決定できる環境をつくるためだったと思います。それを安倍さんは、株価の上昇を増税の先送りと解散の材料にしてしまった。その狡猾(こうかつ)さ、判断の早さ、強運はアスリートのゾーン状態に近いのではないでしょうか。
小渕優子さんは数年後の首相候補と見られていた。つまり安倍さんにとっては数年後の敵なのです。それが勝手にコケてくれたのだから幸運としか言いようがない」
自民党の幹部関係者、C氏の意見も同様だ。
「気の早い話ですが、私の耳には選挙後の内閣改造人事案まで聞こえてきています。目玉となりそうな人事は、小泉進次郎さんの官房副長官抜擢(ばってき)です。
官房副長官は総理が会見場に入るときに出迎える立場なので、いつもテレビに映る。さらに菅官房長官が3回に1回くらい記者会見を進次郎さんに任せれば世間が注目し、勝手に安倍内閣の支持率を上げてくれるでしょう。さらに、安倍さんを若くして重要ポストに抜擢してくれた小泉純一郎元首相への恩返しにもなる。一石三鳥の見事な人事案ですよ。
自らの判断で解散を行なって選挙に勝つと、総理大臣の権力は強化されます。今回の総選挙に勝利すれば、2017年の増税前までに統一地方選も自民党総裁選も参院選も済ますことができる。そのたびに安倍さんの力は強化され続け、戦後最強の権力を持つ総理大臣になると思います」
今回の総選挙では、自民党が勝つという流れは変えようがないかもしれない。ただ、争点がないからといって棄権してはいけない。原発再稼働や集団的自衛権や財政再建など、自分で争点を探しつつ、絶対に投票所に足を運ぼう。そうしなければ、安部首相の暴走を止めることなど誰にもできない。
(取材/菅沼 慶)
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