首相ったら、よけいなことしてくれちゃって…とばかりに、頭を抱えている人たちがいる。12月14日に予定されている「奈良マラソン」の運営関係者たちだ。そう、衆院選の投開票日と重なってしまったのだ。

今年で5回目の開催となる奈良マラソンの参加者は約1万6000人。東京マラソン、大阪マラソン、神戸マラソンなどに次ぐ国内屈指のメジャー大会だ。

奈良マラソン実行委員会事務局の林潤次長がこう語る。

「大会当日の運営マニュアルの作成も終え、7月には参加者に大会案内も発送済み。あとは大会当日を待つだけでした。それが突然、総選挙が決まり、投開票日と重なってしまい……」

そもそも、大規模マラソン大会の運営は大変。道路の使用許可、関係各所への根回し、宣伝活動、当日のコース表示や交通規制、さらには参加者の更衣スペース、手荷物預かり所、トイレ、給水所の手配など、なすべきことは山ほどある。

それが、よりによって総選挙とバッティングとは。いっそのこと、中止か延期にすれば?

「それは難しいです。われわれは1年前から12月14日に向けての準備を進めてきたんです。何よりも参加料を払い、トレーニングと調整に励んできた1万6000人の参加者の皆さんの期待を裏切れません」(林氏)

というわけで、開催強行ということになったのだが、現在、実行委は3つの障害を抱え、てんやわんやだという。

ひとつは男子更衣スペースに予定していた奈良市中央体育館が使えなくなってしまったこと。林氏が続ける。

「当日、体育館が奈良1、2区の開票場として使用されることになってしまったんです。別の場所を探そうにも、1万人規模の人数を収容できて、しかもスタート地点までスムーズに誘導できる立地の施設はそうそうない。それで、あちこちの公共施設に出かけては軒下など広めのスペースを計測し、その面積の総計でなんとか賄えないかと検討しているところです」

総選挙とのバッティングで起こる問題とは?

ということは、更衣スペースはあちらこちらに分散するということ?

当日、参加者にその場所の割り振りや位置はどうやって知らせるつもり?

「参加者が会場に到着した際、変更内容を書いた案内のチラシをひとりひとりに手渡しするしかないと覚悟しています」(林氏)

1万6000人に、ばらばらに散らばった更衣スペースを個別に案内する。聞いただけで気の遠くなるような作業だ。

しかも、その作業をこなす貴重な運営スタッフが100人も減る見込みというのだ。

「大会ボランティア約4700人のうち中心的な役割を果たすのは、奈良県など各自治体から派遣される職員約400人。ところが、そのうち奈良市、天理市の職員約100人が選挙要員として駆り出されることになってしまいました」(林氏)

そして3つ目の障害が、大会当日の交通規制が投票に与える影響。19もの投票区が交通規制の影響を受けることが判明したのだ。特に、奈良市の5つの投票区では約3~5時間にわたって影響が出るという。

「投票所に行く市民の妨げにならないよう、影響のある地域では各戸に2回ずつ交通規制の詳細を知らせるチラシをポスティングして対処しようと考えています」(林氏)

これでは大会本番の前に、運営関係者たちがヘトヘトになってしまいかねない。安倍首相にブーイングのひとつも上げたくなるのも無理はない。

(取材/ボールルーム)