「大義も、争点もない」と言われた今回の総選挙。それを反映して有権者の関心は低く、戦後最低の投票率(52.6%)で終わった。しかし選挙区によっては、注目に値する熾烈な戦いが繰り広げられたところも少なくない。

その象徴ともいえるのが、北海道7区(釧路市・根室市など)と山形3区(鶴岡市・酒田市・新庄市など)の2地区だ。どちらも大物議員の娘が戦った選挙区である。

北海道7区では鈴木宗男氏の娘、鈴木貴子氏が立候補。新党大地との統一候補として民主党から出馬した。

比例区での当選は早々に決めたものの、開票日の午後11時頃、小選挙区では敗戦が決定。すると、彼女の頬に涙が…。

「もう少し有権者に語りかける時間があれば、結果を覆すことができたはず」(鈴木氏)

そう言うのも無理はない。1位の自民・伊東良孝氏とはわずか225票差(72,281票と72,056票)。前回の総選挙で約2万票差だったことを考えると大接戦だったのだ。

父、宗男氏は目を細めながら娘をこうたたえる。

「堂々たるもんだと誇りに思う。選挙(活動)には勝ったが、結果で負けた」

一方、なんとか勝利を収めた自民党・伊東氏だが、素直には喜べない。

7区は公示日直前から選挙期間中にかけて、安倍首相、石破茂氏、小泉進次郎氏など自民党のスターたちが応援に駆けつけた“てこ入れ選挙区”なのに、ここまで追い詰められたのだから、冷や汗モノだっただろう。

宗男氏は「貴子は若い。どちらに未来があるのかは明白だ」と語った。

造反する自民県議らを牽制しリベンジ!

2世議員が僅差で争ったのは、山形3区も同じ。こちらは自民党の加藤紘一氏の娘、加藤鮎子氏が自民党から出馬した。

こちらも比例区での当確は早かった。夜10時半、選挙事務所に詰めかけた約100人の支持者たちは歓喜に沸いたが、間髪入れずに選対責任者がマイクで「小選挙区で勝たないと勝ちではありません!!」と熱くアナウンス。

前回の総選挙では、父親(加藤紘一氏)が山形県連をまとめきれないうちに出馬を強行。そのやり方が反発を呼び、元酒田市長の阿部寿一氏とで保守分裂選挙になってしまった。

結果は阿部氏が無所属ながら一部の自民党県議と市議のサポートを受けて勝利。紘一氏は引退に追い込まれた。つまり今回の選挙は鮎子氏陣営にとって弔い合戦のようなもの。無所属候補は比例で復活できないため、鮎子陣営はなんとしても小選挙区で勝利して阿部氏を落選させたかったのだ。

「今回も阿部さんを支持する自民党の市議や現職の参院議員もいた。山形県連は書面で警告を出し、造反者を必ず処分すると言ってくれた」

と、鮎子氏の事務所関係者は言う。こうした組織的圧力に加え、安倍首相に谷垣幹事長、小泉進次郎氏らも応援に駆けつけ、1488票という僅差(79,872票と78,384票)で競り勝った。

報道では「自公圧勝」ばかりが強調されるが、ひとつひとつの選挙区には、これほどギリギリの戦いがあったのだ。

■週刊プレーボーイ52号(12月17日発売)「総力特集 衆院選レポート」より(本誌ではこの他、話題の注目選挙区を総ざらい!)