自公合わせて3分の2の議席を獲得し、アベノミクスをより推進させるべく意気込む安倍政権。しかし、ジャーナリストの須田慎一郎氏は、そのアベノミクスにこそ政権崩壊の危険が潜んでいると指摘する。

***大勝した自民も高笑いをしてばかりはいられない。ひとつ間違えれば、つるべ落としに支持率が下がり、安倍退陣につながりかねない落とし穴が待ち構えている。

それはアベノミクスの行方が極めて厳しいということ。日本経済の先行きは楽観を許さず、景気が上向く気配は感じられない。

安倍政権の高支持率はアベノミクスによって景気がよくなるという有権者の先行き期待感に支えられている。ところが、実際にはそうなっていないということを、安倍首相自身がよくわかっている。

例えば、選挙戦最後の遊説となった東京・秋葉原での首相演説。このとき、首相は15分間ほどのスピーチで、経済のことしかしゃべらなかった。そして、そのキーワードは小規模事業者対策と地方創生のふたつだった。

これはアベノミクスによって、大企業の業績は上向いているが、中小零細企業や地方の個人には景気がよくなったと実感できるほどの恩恵は及んでいないということを、首相が自覚している証左でもある。

高い支持率を維持するためには、なんとしてでも、アベノミクスによる好景気を中小零細企業や地方にもたらす必要がある。しかし、それはなかなか難しい。

今の日銀は麻薬中毒者のようなもの

今年7-9月期のGDP成長率は年率でマイナス1.9%という衝撃的なものだった。この数値は経済的に見れば、立派なリセッション、景気後退と呼ぶべきものだ。

しかも、アベノミクスによって急激に円安が進み、今1ドル117~118円となっている。ただ、これはあくまでも名目レートで、実際の円の対外価値に換算すれば、1ドル300円前後となっているのだ。

これだけ実質的に円の価値が下落しているのだから、輸入品の価格は大幅アップとなる。当然、庶民の受ける痛みは大きい。

安倍政権にとってラッキーなのは、原油価格の値下がりによって、その痛みが表面化せずに済んでいるということ。もしそれがなければ、国民はもっと深刻な生活苦を感じているはずだ。

日銀の異次元の金融緩和もアベノミクスの前途を危うくしている。確かに今は日銀が後先考えずに、めったやたらに日本国債を買い支えているから株も上がり、長期金利の上昇や国債価格暴落の懸念は少ない。

しかし、今の日銀は麻薬中毒者のようなもの。金融緩和をやめたとき、日本経済がどんな危機に見舞われるか? それを想像すると怖いから金融引き締めができない。そんな日銀の姿は、破滅するのがわかっていても禁断症状が出るのが怖いからと覚せい剤を打ち続ける中毒者そのものだ。

来春にも崩壊の予兆が?

アベノミクスはごく近い未来に行き詰まるだろう。そして、その最初の兆候が出るのは来年春頃と予測している。このとき、中小零細企業の賃上げがなく、個人消費が落ち込んで景気減速という事態になればアベノミクスへの期待は急速に萎(しぼ)む。

国民の8割が景気がよくなった実感はないと感じているにもかかわらず、この選挙で4割近い人が安倍自民に投票するという矛盾めいた動きが起きたのは「アベノミクスで景気がよくなるかも」「安倍さんだったら、なんとかしてくれるはず」という先行期待を多くの人々が抱いているからだ。

その期待がついえた時点で、安倍政権は急速に失速することになる。この総選挙で大勝し長期安定政権になると目されている安倍政権だが、その足元は決して盤石ではない。

■週刊プレーボーイ52号(12月17日発売)「選挙期間中は書けなかった話、これからどうなるかの話」より(本誌では、メディア統制や憲法改正についても詳説!)