今回の総選挙は、投票前から報道では「自公有利」と伝えられ、実際に圧勝で終わった。しかし自民党は、実際には議席数をわずかに減らしている。つまり、決して“楽勝”ではなかったのだ。

そのことを端的に表しているのが、自民、民主、維新が三つ巴の戦いを繰り広げた、大阪10区(高槻市・三島郡島本町)である。

街頭演説で「ケンタ! ケンタ!」とオバチャンに人気の維新・松浪健太氏に、知名度抜群の民主・辻元清美氏。そこに早稲田大学創設者、大隈重信のやしゃごである自民・大隈和英氏が加わり、横一線となった最激戦区ーー。

「日付が変わる時間になるまで誰にも当確が出ないだろう」(自民関係者)と混戦が予想されていたが、午後10時5分に「辻元清美・当確」の第一報が入った。

「こんなに早く決まるとは……」と、驚いた様子の辻元氏が今回の選挙戦を振り返る。

「正直、維新の人は眼中になかった。自民の人も下の名前を知りません。私にとって今回の選挙は首相官邸との戦いやったんです」

というのも、大隈氏には安倍首相、麻生財務相、石破地方創生担当相、谷垣幹事長ら自民の大物たちが日替わりで現地入りしていたのだ。しかし、辻元氏はそれを逆手にとるかのように街頭演説でこう訴え続けた。

「なんで毎日毎日、総理や大臣を送り込んでくるかというたら、安倍政権がなんとしても辻元を落とそうと必死やからです。集団的自衛権の行使や、憲法9条の改正に体を張って立ちはだかる議員やから、辻元は消しとけと。皆さん、私を守ってください!」

暴漢に襲われる逆境も追い風に

続けて、選挙終盤の演説中には、聴衆のひとりから「北朝鮮の手先!」「中国のスパイ!」と殴りかかられて警備員に間一髪で救われたエピソードを披露。涙ながらに、

「こんな世の中に誰がしたんですか? 私ね、今の安倍政権に体を張って立ち向かってると思います、ホンマに……」

すると、それまで静観していた沿道からは辻元氏の涙の訴えに「頑張れ」「負けるな!」との声援が上がった。自民関係者がため息交じりにこう話す。

「辻元さんの同情を誘う演説は見事というしかないですね。浮動票の多くが同情票として彼女に流れてしまったと思います…」

辻元氏の眼中になかった松浪氏も「普通の候補者が相手なら勝てていたはずですが…」と、素直に負けを認めて愚痴るしかなかった。

自公が有利と伝えられていても、首相や大臣たちの応援があっても負けるときは負けるのが選挙。大阪10区の結果は、そんな当たり前のことを思い出させてくれた。

しかし、結果的には敗れた大隈氏も松浪氏も比例で復活当選。なんだかなあ……。

■週刊プレーボーイ52号(12月17日発売)「史上最低投票率でも燃えたぎった沸騰選挙区13の開票日ドラマ」より(本誌ではこの他、話題の注目選挙区を総ざらい!)