前回の総選挙からまだ約2年。衆議院の任期は半分残っていて、内閣不信任案が出されたわけでも重要法案が通らなかったわけでもない。今回、投票所に足を運んだ人でさえ、多くは「ピンとこないまま選挙が終わった」んじゃないだろうか?

野党がバラバラなうちに衆院選をやり、政権の寿命を延ばすための“今のうち解散”。そんなのありか?という疑問もわいてくるが、少なくとも法的には「あり」だ。政治学者の飯尾潤氏が解説する。

「日本国憲法69条には、『内閣不信任案が可決されたときは、衆議院を解散しない限り内閣総辞職しないといけない』ということが書いてあります。憲法で解散の状況を規定しているのはここだけ。ただ、それと別に7条には、内閣の助言と承認のもとに行なわれる『天皇の国事行為』の3番目に『衆議院を解散する』と書いてあります。

内閣が助言すると書いてあるから、内閣の思惑でなんでもできるという解釈もできるし、69条にわざわざ不信任案のことが書いてあるんだから、それしか解散はできないという解釈も学説としてはあります。しかし戦後、不信任案可決の場合以外でも何度も解散が決行されたことで、なんとなく『あり』なこととして定着した。“憲法慣習”という位置づけですね」

事実上、日本の首相は“フリー解散権”を保持しているわけだ。では、諸外国ではどうだろうか?

アメリカには解散制度自体がなく、フランスやドイツも厳しい制限がかけられている。もともとはフリーハンドだったイギリスも、2010年に新たな法律が成立し、「簡単に解散できない」制度へと転換した。

主な先進国の中で比較的、解散が行なわれやすいのはイタリアとカナダだが、イタリアでは内閣ではなく大統領の専権事項となっており、日本とは性質が異なる。カナダにしても、07年に「基本的には4年ごとに総選挙を行なう」という法律が制定され、解散を極力少なくする方向へ進んでいる。

「一般的に、西洋の議院内閣制の国では解散はまれで、あっても多くは任期満了に近づいてからです。なぜなら、政権公約は時間をかけないと成果が上がらないし、早く解散すると途中で投げ出したと見られてしまう。

例外は、与党内の造反で議会の過半数を確保できないとか、政権が絶対に通したい法律が通せないなど、『解散しないと状況が打開できない』時です。だから、今回の日本の解散は珍しいケース。海外のメディアからも『どういう理屈か?』と聞かれました」(飯尾氏)

ちなみに今回の解散は、いわゆる55年体制以降、3番目の早さ。ただ、最も早かった80年の「ハプニング解散」では内閣不信任、2番目にあたる05年の「郵政解散」では法案の参院否決というわかりやすい理由があった。

諸外国から見ただけでなく、日本だけで考えても、やはり、特に争点がわかりにくかった今回の解散は、異例の事態といっていいのだ。

■週刊プレイボーイ52号(12月17日発売)「日本の“お気楽解散”って、そもそも世界的に異常なのか調べてみた」より(本誌では、さらにその背景を詳説!)