予定調和というしかなかった日本の衆院選とは対照的に、大いに盛り上がった11月の台湾統一地方選挙。民進党の躍進は、もっと大きな流れに発展する可能性があります。

少し前の話になりますが、11月29日に台湾で統一地方選挙が行なわれ、与党・国民党が首長ポストを選挙前の15から6に減らし、最大野党の民進党は6から13まで躍進しました。特に注目された台北市長選は、民進党が支援する無所属の柯文哲(かぶんてつ)氏が当選。16年間も国民党が握ってきた重要ポストを奪われた責任を取り、台湾・馬英九(ばえいきゅう)総統が党主席を辞任する事態となりました。

国民党大敗を読み解くひとつのポイントは“世代”です。今年春に起こった学生たちによる立法院占拠(太陽花学運)もしかり、台湾では若い世代が政治を動かす大きなファクターになっています。

彼らは1990年代から2000年代にかけて総統を務めた李登輝(りとうき)や陳水扁(ちんすいへん)といった、中国からの独立を主張するリーダーの時代に育った世代。“台湾人”としてのアイデンティティがすこぶる強く、経済的・社会的に中国へ接近する馬英九政権の考え方とは相容(あいい)れない。現地を何度も訪れたぼくの肌感覚では、学生の8割以上が民進党支持です。ぼくと議論をする際も、彼らは自らが台湾人であって中国人ではないこと、中国と台湾の関係が「二国二制度」であることを強く主張してきます。

国民党から今回の台北市長選に立候補した連勝文(れんしょうぶん)氏は、国民党名誉主席の連戦(れんせん)氏を父に持つ“二世政治家”で、親譲りの権力、財力というイメージが強い人物。社会や政治の不平等という不満の矛先になりやすく、選挙前の世論調査の段階で、連氏の敗戦は濃厚でした。

台湾統一地方選挙の結果に希望を抱いたのは、当の台湾の学生ばかりではありません。民主的な選挙の実現を求め、今年9月末から大規模な抗議活動「占中」を続けた香港の若い世代も刺激を受けていました。

中華民国政府台湾移転後最大の学生運動である90年の「三月学運」を引っ張った台湾の知人は、今回の選挙結果を受けてこう言いました。

「台湾が勝った。民主主義が勝った。次は香港。頑張れ!」

当時、三月学運で活動した多くの台湾人が香港に入り、この秋の大規模なデモを支援していた。こうした背景もあって、香港の若者たちは台湾の“勝利”を決して人ごととは見ていないわけです。

中国が恐れている事態とは?

とはいえ、もちろん台湾と香港では前提がまったく違う。香港はあくまでも中国の一部であり、一国二制度とはいっても政治的には中国共産党のコントロール下にあります。

それでも、台湾と香港の学生たちの中国に対するスタンスは似通ってきている。今後、台湾の世論がますます“反中”へと傾き、「民主主義というボトムラインを共有できない中国とは付き合えない」という流れが本格化すれば、その影響は香港へも波及するでしょう。

中国政府が最も恐れているのは、その流れが中国本土へ飛び火することです。現代では、いくら中国政府がインターネット規制をしたところで、台湾と香港での政治運動の情報は、網の目を縫うように中国本土へ流れ込んでいる。今後、中国共産党統治にとって最大のリスクは、尖閣(せんかく)諸島問題でもなければ新疆(しんきょう)ウイグル問題でもない。中国にとって「内政」と「外交」が重なる台湾・香港の問題こそ、最もクリティカルなイシューになるとぼくは考えます。

2016年には台湾で総統選があります。ここで民進党が勝つと、翌17年の香港行政長官選挙へも影響を及ぼすでしょう。現状では、この選挙には親中派の人物しか立候補できないことになっており、それに対して香港民主派・学生の怒りが爆発し、強制的なバリケード撤去・デモ隊排除を経てひとまず幕を閉じたのが今回の「占中」ですが、今度はそれ以上の抗議デモが起きる可能性もある。それでも台湾・香港の動向が気にならないのなら、その理由を逆に教えて!!

加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/