「安倍政権はプーチン大統領の訪日を早く実現して、日ロの安定的な発展の方向性を示すべき」と指摘する佐藤優氏(右)と鈴木宗男氏 「安倍政権はプーチン大統領の訪日を早く実現して、日ロの安定的な発展の方向性を示すべき」と指摘する佐藤優氏(右)と鈴木宗男氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。今回のテーマは、昨年12月14日に行なわれた衆議院選挙の結果、“今後の日本はどうなるか”だ。

改選前と同様、与党が衆院の3分の2を超える議席を得たため、安倍政権は悲願の憲法改正、集団的自衛権の行使に踏み切る?かと思いきや、連立を支える公明党が足かせとなり、なかなか思惑どおりにいかない実情を前回は伝えたが…(前編⇒ http://wpb.shueisha.co.jp/2015/01/12/41817/

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佐藤 ところで、今の日本政治の最大の問題は、私はポピュリズムと反知性主義にあると思ってるんです。

反知性主義とは、私の暫定的な定義では「実証性、客観性を軽視もしくは無視して、自分が望む形で世界を理解する」というものですが、この反知性主義とポピュリズムが合わさると、ナルシストな政治家が出てくる。フランスのサルコジ政権もそうだった。だから世界で普遍的に起きている流れなんです。

ただ、日本が特殊なのは、いろんな政策が安倍さんの「心の動き」で決まるところです。靖国参拝も集団的自衛権も憲法改正も、心の啓示で動いてる。でも、そういう人とセンスの合う指導者が世界にはいるんです。

例えば、北朝鮮の金正恩。安倍政権になって日朝関係が動き始めたのもそのせいです。それからロシア、イスラエルとも関係が良くなっている。安倍さんはどうやら、世界の中で国際水準と少し違う発想で動く国とすごく波長が合うんですね。

そのロシアは、ウクライナ危機以降のアメリカ、EUのロシア封じ込め策に対して、ユーラシア共栄圏をつくり、そこで経済を回していこうとしている。

「この道しかない」と言い始めたら終わり

今、日本の新聞が「ルーブルが下落してロシアは大変だ」とか騒いでいますが、これは輸入品依存から脱却し、国産品重視政策に転換するための為替ダンピングなんです。その方向転換をプーチンが11月26日に発表したんですが、これは日本ではまったく報道されていません…。

幸いなことに、安倍政権はぼんやりしていて、アメリカやEUの対ロシア強硬政策と一線を画しているので、日本はまだロシアから敵視されていません。だから日本は、プーチン大統領の訪日を2015年の早い時期に実現して、共同文書で「日ロはお互いを敵視することはない」という条項を入れておくことが大事です。

それによって日ロの安定的な発展の方向性を示せば、その文脈の中で北方領土交渉を動かすことも可能になる。この機会にシベリアから北海道までパイプラインを敷いて、天然ガスの安価な供給契約をロシアと結ぶべきですね。そうやって、したたかにやらないといけません。

鈴木 そこだけは、安倍政権はうまくやってほしいですね。

佐藤 はい。ただ、今回の選挙で安倍さんが言ってた「この道しかない」で思い出したんですが、1988年8月にモスクワに行ったときにも、国中に「イノーヴォ・ニ・ダノ(この道しかない)」という共産党のスローガンが溢(あふ)れていました。当時、ペレストロイカがうまくいかず、国民が文句を言い始めていたため、共産党がラジオでもテレビでも「この道しかない」とわめき始めたんです。

結局、このキャンペーンは1年くらいで終わり、3年後にはソ連が崩壊しました。政治家が「この道しかない」と言い始めたら、もう終わりに近く、政権は長続きしないんですけどね。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は1月29日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ。

●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010 年に収監される。現在は201 7年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる) 1960 年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍