新基地建設に揺れる沖縄・辺野古(へのこ)。必死の抗議活動を続ける市民をあざ笑うかのように、辺野古の海上についに大型作業船が投入された。
翁長雄志(おなが・たけし)知事が工事中断を要請した翌日に、その言葉を無視するという安倍政権の暴挙だ。その時、現地では何が起こったのか? ノンフィクションライターの渡瀬夏彦氏が現場から再びレポートする。
***
その光景を目の当たりにした瞬間、言葉を失った。
沖縄の海が汚され、駄目押しのような形で、正々堂々と選挙で示し続けてきた「新基地建設NO!」の県民の意思が踏みつぶされた1月27日の朝だった。暴挙・蛮行の「犯人」は紛れもなくこの国の政府、安倍政権だ。
名護(なご)市辺野古の国道329号線。辺野古弾薬庫に近い閉鎖中のゲート越しに大浦湾を見下ろした。
巨大なクレーンを備えた作業船が2隻、大きな四角いコンクリートブロックを大量に積んだ台船が1隻、ブルーシートに覆われた積み荷を載せた台船が1隻、やや小ぶりのクレーン船が2隻、それ以外の運搬船らしきものも2隻ほど。それらが一気に目に飛び込んできた。
多様な生物の命を育む海に、沖縄県民が「宝の海」と誇りを込めて呼ぶ大浦湾(米海兵隊キャンプ・シュワブの岸からおよそ150mから200mの位置)に、これだけの船が夜も明けぬうちに浮かんでしまっていた。
それらは、防衛省沖縄防衛局が大浦湾のボーリング調査を始める前に、新しい大型ブイや頑丈なフロートを設置・固定化するための作業船だった。四角い巨大なコンクリートブロック(『沖縄タイムス』29日付によると縦横2m、厚さ50㎝ほど)は、ブイなどを固定するためのアンカーだ。
突如出現した、あまりにもおぞましい光景
これら大量のブロック投入自体がサンゴ礁を傷めつけ、生態系を破壊する恐れがあることは明白だった。
その直前の午前7時頃、わたしはキャンプ・シュワブのメインゲート前にいた。
そこではちょうど、沖縄平和運動センターの山城博治議長が、市民と機動隊の深夜の睨(にら)み合いを振り返る集会を開いていた。
複数の地元議員も夜を徹して、あるいは早朝から座り込みに参加し、玉城義和(たまき・よしかず)県議(名護市区選出)からは、26日に翁長雄志知事が埋め立て承認の法的瑕疵(かし)を検証する第三者委員会を正式に立ち上げることを発表したこと、沖縄県警と海上保安庁幹部を呼んで、ケガ人続出の過剰警備をとがめる面談をしたこと、また安慶田(あげだ)光男副知事が防衛局に「作業中止」を申し入れたことも報告された。
玉城県議からは、今後は「かつてなかったような大規模な県民大会開催」も含めてのさまざまな「闘い」が必要であることが強調され、拍手が起きたばかりだった。
そんなときだった。「台船のようなものが大浦湾に来ている」と聞かされた小橋川共行さん(うるま市在住、毎日座り込みに参加)らが海の見える場所へ監視に出かけ、帰ってきた。そしてわたしにクレーン船の形状をスケッチしたメモ用紙を見せてくれた。
見た瞬間、わたしも絶句したが、忘れられないのは、小橋川さんの表情である。政府の蛮行に対する怒りというよりも、あまりにおぞましいものを見てしまったという深い悲しみが、顔いっぱいに広がっていた。
知事が工事中断を求めた翌日の「闇討ち」に唖然
ゲート前で夜を徹してブイやフロート、コンクリートなどの資材搬入に備えていた県民、全国からの支援者の胸には言いようのない悔しさが生まれていた。当局のリーク情報をもとにゲートを警戒しているうちに、海側から「闇討ち」に遭(あ)った格好である。
「闇討ち」が沖縄防衛局の姑息(こそく)な常套(じょうとう)手段であることは皆、認識していたが、ここまでやるか、という蛮行だった。
玉城県議が報告したとおり、前日には翁長県知事が、政府のやり方はおかしいと表明し、動いたばかりだ。ゲート前に連日通っている地元・大浦湾地域の住民からも「(作業中止を求め、過剰警備を批判する知事の言動を)まだかまだかと待っていたけど、やっと動いてくれてよかった」という声が上がっていた。
それに対する安倍政権の答えが、これなのだ。
その日、わたしは怒りと悔しさをどこにぶつけてよいかわからず、辺野古・大浦湾地域をおろおろと歩き回った。歩き回っているわたしに、稲嶺(いなみね)進名護市長が市役所で緊急ぶら下がり会見をすると教えてくれる地元紙記者もいた。ありがたかった。
そうだ。地元中の地元である名護市民の民意を体現する稲嶺市長の現在の心境を知ることを、取材者として欠かすわけにはいかないのだった。
●この続き、PART2は明日配信予定!
(取材・文/渡瀬夏彦 撮影/森住 卓)
■週刊プレイボーイ7号(2月2日発売)「政権の言うことを聞かない沖縄が“武力”で圧殺された日」より