先週に続いて南米紀行です。訪問先は、山岳国家ボリビア。反米・社会主義を掲げるポピュリスト指導者が強固に統治するこの国にも、大きな波が渦巻いています。

先週ご報告したベネズエラに続き、その足で同じ南米大陸の中部に位置するボリビアを訪れました。

ボリビアの中心都市は、標高3600m以上の高原地帯にあるラパス。到着後、高山病を発症してしまいました。ただし、治安が悪く危険極まりないベネズエラのカラカスとは違い、のんびりとした風土で、観光客も安心して旅ができる。市中の警察が、秩序と治安を安定させるべく、強い力を行使していました。

2006年に就任したボリビアのエボ・モラレス大統領は、先住民として初めてトップに立った人物で、社会主義を掲げています。ベースとなる政策は、ベネズエラと同じく貧困層への手厚い保護。ボリビアの貧困層は大半がモラレス大統領と同じ先住民で、彼らの利益や要望に働きかけるポピュリズム政治を展開しています。

ラテンアメリカで社会主義を掲げる国といえば、代表的なのはキューバですが、それにベネズエラとボリビアを加えた3ヵ国は“ラテンアメリカ社会主義同盟”ともいうべき密接な関係にあります。興味深いのは、キューバは医師を、ベネズエラは石油エンジニアをボリビアへ派遣していること。ボリビア政府はこうした“輸入人材”に市民権、そして選挙権すら与えている。その人数は、全有権者の約15%を占めるほどだといいます。

前回、多くのベネズエラ人が自国の荒れ果てた社会に絶望し、国外に脱出したがっていることを紹介しましたが、ボリビアのこうした受け入れ政策は、ベネズエラ人にとって渡りに船。富を得るために西側諸国へ亡命する国民が後を絶たないキューバにとっても、ボリビアは便利な存在です。そして、同時に彼らはモラレス政権の強力な“票田”ともなっているというわけです。

ただし、ボリビアでも中産階級や富裕層は国家に絶望を感じています。彼らはキューバ人やベネズエラ人に領域を侵され、職さえも失っている。その上、モラレス大統領はメディアや軍部を牛耳っている。表立った政府批判はできないそうですし、連日のように起きているデモや集会も、大きな動きになる前に食い止めているようです。

キューバが鍵を握るワケ

もうひとつ興味深いのは、ボリビアとベネズエラは社会主義を掲げながら、一方で(少なくとも制度上は)民主的な選挙を実施していること。この点は、一党独裁を堅持している中国との大きな違いです。経済・社会的には不安定だけれど、民主制の素地があるラテンアメリカの社会主義と、民主選挙の歴史がないまま急速に経済発展する中国の「社会主義資本経済」―両者の相違点を考えさせられました。

ボリビア、そしてこの社会主義同盟の今後は不透明。カギを握るのは、同盟の“ビッグブラザー”であるキューバの動向です。

昨年末に大きく報じられたとおり、アメリカとキューバは国交正常化に向けて歴史的な外交交渉を始めています。依然として反米を掲げるボリビアやベネズエラも、キューバの動向次第では路線変更を余儀なくされるでしょう。キューバに追随(ついずい)する可能性もあれば、逆に反米姿勢をより鮮明に打ち出す可能性もある。

30年前、40年前なら、アメリカが秘密裏にクーデターを支援し、親米傀儡(かいらい)政権を樹立させることもできたのでしょうが、今のアメリカにそんな力はなさそうです。だからこそ、ベネズエラとボリビアのビッグブラザーであるキューバを懐柔することで、ラテンアメリカにおける自国のプレゼンスを再び高めようとしているのかもしれません。

一方、中国がベネズエラを戦略的に支援しようとしているのは、そのアメリカに対抗する動きとも映ります。このダイナミックなパワーゲームに無関心でいられるというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/