アルカイダやイスラム国などイスラム過激派との緊張状態が続くなか、現在、各国の対テロリスト戦略・戦術が変化してきている。

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が指摘する。

「ひと言で言うと、テロリストとそれを支援する者たちを皆殺しにする戦略です。これには、パキスタン軍学校をタリバンテロリストが襲撃したテロ事件が深く関係しています」

昨年12月16日にパキスタンの軍学校が7名のタリバン系テロリストに襲撃され、生徒と学校職員の計141名が射殺された。7名のテロリストは、同日夕方までに出動したパキスタン軍特殊部隊SSGによって全員射殺。

「インドはこのテロ事件をきっかけにロシア製戦闘ヘリを大量に国内で生産し、秘密警察に供給することにしました。それを使って国内のイスラムとヒンズー教のテロリストを皆殺しにしようというのです。

同時にインドは、関係が良好なイスラエルから人殺し専門の無人武装飛行機を大量に導入しようとしています。値段は米国産の数分の1だから大量に装備できる。『テロは、テロリストを皆殺しにすることでしか解決できない』と戦略を変更したと思われます」(佐藤氏)

こうした変更を選んだのはインドだけではない。軍学校をテロ攻撃されたパキスタンも国内の刑務所にいたテロリストの死刑執行を再開した。

射殺する。皆殺しにするしかない?

「でも、死刑制度のない国はどうするか? 生きて捕まえても終身刑にしかならない。だから現場でテロリストは射殺する。皆殺しにするのです」(佐藤氏)

確かに(死刑制度がない)フランスのテロ事件では全員が射殺されている。捕まえれば終身刑だが、その間に世界のどこかでフランス人がテロリストに捕まれば、人質交換を要求するテロが多発する可能性が生ずる。だから「皆殺し」なのだ。

しかし、はたして世界各地に広がるテロリストたちを皆殺しにすることなどできるのだろうか? アルカイダがどこにいるのか、テロを起こすまでわからない。イスラム国は居場所こそわかるものの、彼らとの戦いは今までの戦争とは様相が異なるものになる。

国家間の戦争は、片方が白旗を上げて降参すれば戦闘は終わる。だが、イスラム国兵士は死ぬのを恐れない殉教者たちだ。しかも兵士は20万人以上で、今なお世界中から志願兵が集まってきている。

オバマ大統領は、今年の一般教書演説で、イスラム国の壊滅を目標に掲げた。だが、そのためには20万人のイスラム国兵士を皆殺しにし、さらに、各国に散らばるHGT(自国育ちテロ)をも殲(せん)滅しなければならない。

こうして、テロとの戦争に出口は見えず、終わりなき報復の連鎖が繰り返される。2015年の幕開けとともに、地獄のふたが開いたことだけは確かだ。

(取材/小峯隆生)