石田氏の著書『波のうえの魔術師』(文春文庫)は、老投資家とフリーターによる経済小説。「この本を読むと少しは投資の参考になるはず」

フランスの経済学者、トマ・ピケティが書いた『21世紀の資本』が世界で大ベストセラーとなり、日本でも一大ブームになっている。この本が巻き起こした「格差論争」について作家の石田衣良氏が語るインタビューの後編。

【前編】(http://stg.wpb.cloudlook.jp/2015/03/01/44236/)では、格差拡大を防ぐ対策として「高額所得者の税率をもっと上げる」「資産に税金をかける」というピケティの主張に疑念を示し、「投資するほうが儲かると証明されたのなら、自分もそっち側に行けばいい」という逆転の発想を展開したが…。

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―でも、年収200万円とかだと、なかなか投資する余裕もありません。

石田 年収200万円でも毎月1万円貯金すれば、5年で60万円は貯まりますよね。頑張れば100万円にもなる。

僕も最初はアルバイトで貯めた100万円で株を買いました。そして、ちょっと儲けた、ちょっと損したというのを繰り返していった。だって、投資をやっている人がたくさん儲けているのに、自分は蚊帳の外で何もしないって、もったいないじゃないですか。

僕は、資本主義の国のマーケットって、20歳以上の人間だったら誰もが自由に出入りできるカジノだと思っているんですよ。

―カジノですか……。

死ぬほど働き給料だけで暮らす考えはやめるべき

石田 ええ。しかも、カジノよりも控除率(手数料の割合)が低い。競馬(20~30%)や宝くじ(55%)とは比べ物になりません。

今、ピケティの本が話題になっていて、どうやら日本ではこれから格差がどんどん広がっていくようだ。そして、自分はどうやら負け組のほうに入っていて、これからどんどん貧乏になっていくと不安になっている人がいるかもしれない。

でも、これから格差が広がるかもしれないけれど、資本主義の国であるからには資本家になれるチャンスがあるわけで、そのチャンスを利用しない手はないでしょう。

それからもうひとつ。僕はフリーターや非正規社員の人こそ、ぜひ投資をしてほしいと思っています。

だって今、働いている会社から急に「明日から来なくていい」って言われたらどうするんですか。仕事がなくなった時に少しでも収入を確保しておくことは絶対に必要です。

もちろん、正社員の人だって、会社の言うことを素直に聞いて、死ぬほど働いて、給料だけもらって暮らすという考え方はもうやめたほうがいい。それだけで生活していたら余裕がなくてだんだん苦しくなるはずです。

僕は、投資は自由と独立を与えてくれると思います。

―投資を始めることで、格差社会から脱出できると。

石田 脱出できるかどうかはわからない。それでもマイナスに考えるよりはいい。

というのも、僕は格差社会の問題点のひとつに憎しみが上下に向かうことがあると思うんです。自分と同レベルの人たちではなく、収入が離れている両端の人たちに向かう。それは、一方はお金持ちで、もう一方は生活保護を受けている人や在日などで差別を受けている人たち。

ヘイトスピーチは、それが表面化したものだと思うけれども、そういう人たちをいくら憎んでも自分の立場は変わらないし生活が豊かになるわけでもない。

それだったら、今の日本の社会システムをうまく利用して、自分の境遇から抜け出すことを考えたほうがいい。そのひとつが投資だと思います。

今の自分の立場をひっくり返してみれば?

―格差が広がっていくと、経済的な問題だけでなく、自分の居場所などもなくなっていくように思いますが。

石田 今は恋愛格差という言葉もありますよね。最近も『ルポ中年童貞』という本が話題になったように40代でも童貞の人がたくさんいる。

あるお見合いパーティの主催者に「どういう人が彼女を見つけられるんですか?」と聞いたら「男の人は、ある程度身なりを清潔にしていれば、ルックスや年齢は関係ありません。具体的に日時を決めて、女の人をデートに誘える人がモテます」と言ってました。

「来週の日曜日に渋谷のイタリアンに行きませんか?」と聞いて、「すみません。その日は予定が入っていてダメなんです」と“その日はダメ”と言われたら「じゃあ、あらためてお誘いします」と言える人。そういう人はルックスや年齢は関係なく彼女ができるそうです。

実は、そういう単純なことで恋愛問題は解決する。これは投資も同じで、お金を貯めて好きな会社の株式を買うだけ。そんな単純なことをできるかどうか。

ピケティは『21世紀の資本』で、株式や債券は儲かると言っているのだから単純にやってみればいい。そして、今の自分の立場をひっくり返してほしい。

■石田衣良(いしだ・いら)1960年生まれ、東京都出身。1997年、『池袋ウエストゲートパーク』(文藝春秋)でデビュー。2003年、『4TEEN』(新潮社)で直木賞受賞。シリーズ最新作は『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』(文藝春秋)

(取材・文/村上隆保 撮影/本田雄士)