国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

* * *

日本を訪れ、大量に買い物をする中国からの観光客は、今や大事な“お客さん”です。そして、その先には数億人の「中産階級」という巨大な市場が広がっています。

中国の大手旅行サイト『携程網(シートリップ)』によると、今年2月の春節(旧正月)に日本旅行をした中国人は、前年比200%近くに達したそうです。円安の影響もありますが、ビザ緩和により、日本は中国国民にとって徐々に“来やすい国”になりつつあります。ぼくも春節のある日、たまたま東京の明治神宮・表参道あたりにいたのですが、至る所で中国人観光客を見かけました。

百貨店や家電量販店などでの“爆買い”と呼ばれる豪快な買い物ぶりが報じられたとおり、観光目的で日本を訪れる中国人の多くは富裕層。彼らにとって日本は、ショッピングもでき、清潔で安全、そして現在の中国が失った儒教の精神が息づく身近な国――という認識のようです。

経済成長著しい中国では、富裕層は年々増えています。中国とドイツの合弁保険会社である「中徳安聯集団」の2011年末の試算によれば、2021年までの10年間、富裕層は毎年15%ずつ増えていく。また、別の2013年のデータによれば、資産が600万元(約1億円)以上ある人は270万人おり、その平均年齢は39歳。資産1億元(約17億円)以上となると6.35万人で、平均年齢は41歳だそうです。

このように、中国には若い資産家が多く、彼らはベンチャーを起業したり、あるいは株のトレーダー、投資銀行のバンカーなどの職についています。一部には、グレーゾーンで暗躍している投資家もいるようですが。

そんな富裕層が今考えていることは、やはり「移民」。資産の安全性や衛生面、治安面での懸念、そして子供の教育を考慮して、国外に脱出しようという動きは常にあります。現代のグローバル社会では、海外に移住した後も、中国の巨大市場でビジネスを行なうことができますから。

さらに中国の人口増加!

ただし最近では、中国国内の魅力的な投資先が政府の締めつけにより減ってきている。そこで、富裕層の目が海外の不動産などに向きつつあることも見逃せません。日本でも東京の一等地の不動産がかなり中国の投資家に買われていますが、この傾向は今後も続いていく可能性が高いでしょう。

日本国内の個人消費が冷え込む昨今、観光業や小売業、サービス業にとっても中国の富裕層を狙ったビジネスは魅力的な市場になっています。先日、某所の東急ハンズへ行ったら、中国で最もポピュラーなクレジットカードである銀聯カードを利用すると5%オフという表示を見ました。東京でも中国語の案内表記がかなり増えてきたという実感もあります。

そんななか、もう一歩先を見越してぼくが注目しているのは、中国の中産階級です。

ある政府系学者の定義によれば、中国における中産階級は年収が6万元(約100万円)から12万元(約200万円)で、人口の約25%を占めるそうです。ただし、中国には表に出てこない独特の“雑収入”がありますし、ぼくの肌感覚としても実際の収入はもう少し多いような気がします。

いずれにしても、現段階で国民の4分の1を占める中産階級が今後、収入を伸ばしていき、また人数的にも増えていくことは間違いありません。ひとりひとりの購買力は富裕層ほどではなくとも、日本としては数億人というこの巨大市場を取り込むことを意識していくべきでしょう。

それに、なんといっても中国における反日感情を緩和する一番の方法は、実際に日本に来てもらうことです。ぼくの実感からいって、等身大の日本に触れさえすれば、95%の人は日本を好きになってくれる。だからこそ、官民を挙げて、良識ある中国人の受け入れに取り組むことが必要だと思います。このチャンスを見逃していいというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。19 84年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012 年8月、約10 年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/