3月9日からハワイのワイコロアで行なわれていたTPP参加12ヵ国による首席交渉官会議が、またしても「大筋合意」への道筋をつけられないまま7日間の日程を終えた(日本時間3月16日)。
安倍首相が記者会見を行ない、TPP交渉への参加を正式に表明したのが2013年の3月15日なので、それからちょうど2年の月日が流れたことになる。
ハワイの会議では、例えば著作権や新薬の特許といった「知的財産」の保護期間の延長を主張するアメリカと、それに反対する新興国の立場の違いが大きな亀裂となったようだ。その他も多くの分野で各国の主張には大きな隔たりが残された。
アメリカが強く望んでいた基本合意の早期実現どころか、当初は5月に予定していた参加国閣僚会議も開催の見通しが立っていない。なぜこんなコトになっているのか?
「TPP全体の中で大きなボリュームを持つ日米交渉がいまだ合意に至らないことに加え、知的財産権やISD条項など多くの部分で課題が残っているのも確かですが、もうひとつ無視できないのがアメリカ・オバマ政権のTPA問題です」
こう指摘するのは、日米双方のチャンネルを駆使してTPP交渉を市民の立場でウオッチし続けている、アジア太平洋資料センターの内田聖子(しょうこ)事務局長だ。
「TPAとは『大統領貿易促進権限』のこと。アメリカでは、外国との貿易交渉に関する取り決めをするのは議会の権限なのですが、それを一時的に大統領に委任することができます。しかしオバマ大統領は、まだこのTPAを持っていない。つまり、仮にTPP交渉が合意できたとしても自国の議会が承認しない可能性があるわけです。
なので今、オバマ大統領は死にもの狂いで『TPAをくれ』と訴えているのですが、思いのほか議会の反対が強く、いまだに法案すら提出できていません。来年の大統領選挙に向けて、オバマ大統領に実績をつくらせたくない共和党はもちろん、民主党にも反対派が多数います」
オバマ大統領とアメリカの駆け引き
アメリカ以外のTPP参加国からしたら、せっかく合意に至っても、後からアメリカ議会にちゃぶ台をひっくり返されたら元も子もない。議会でTPA法案を通せずにいるオバマ政権に対して不安を感じるのは当然だ。
一方、オバマ大統領としては、TPP参加国の中でアメリカとの貿易額が最も大きい日本との交渉を「できるだけ早く」「アメリカに有利な条件で」合意して、それを材料にTPA法案の承認を取りつけたいという思惑がある。
今年に入ってからアメリカ通商代表部のフロマン代表が「日米交渉の早期妥結」をしきりに強調したことや、「3月中の基本合意を目標にすると日米が確認」といった、交渉があたかも急進展しているかのような情報が流されたのは、こうしたアメリカ側の焦りが背景にありそうだ。
(取材・文/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ14号(3月23日発売)「いつの間にかTPP急発展のカラクリ」より(本誌では、さらに日米交渉の裏側、安倍政権が圧力をかける農協改革まで詳報!)