今年1月末、米海軍第7艦隊のトーマス司令官はロイター通信のインタビューで、アジア海域の防衛について、次のように語った。
「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは理にかなっている。南シナ海の同盟国、盟友国はますます日本に期待するようになるだろう」
第7艦隊は神奈川・横須賀の米軍基地に旗艦を置き、西太平洋・インド洋を担当海域とする、日米同盟の根幹をなす艦隊。さらに南シナ海では現在、中国が“人工島”の建設を進め、強引に領土・領海を拡大しようとしている。
そんなモメ事だらけの海域に配置されているにも関わらず、「自衛隊が頑張れ」と述べたのだ。米海軍は頑張ってくれないのか?
やけに人ごとなアメリカの態度を、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は次のように読み解く。
「アメリカは今、中東(対「イスラム国」)とウクライナ(対ロシア)で二正面作戦を強いられています。そんな時、日本と中国との間で緊張が高まったらどうするか? 対中国にも本腰を入れて、三正面作戦までやるのか? オバマ大統領がいくら変わった人でも、さすがにやらないでしょう」
もうアメリカは手いっぱいだから、そっちは日本が自分で頑張ってくれ――。今はそんな状況らしい。
もうひとつ、日本にとって無視できない米海軍の事情がある。アメリカで昨年発表された一本のレポートの内容が米国防関係筋で大きな話題になったのだ。
レポートの中身とは?
タイトルは『COMMANDING THE SEAS』。ワシントンの国防系シンクタンク「CSBA」の上席研究員、ブライアン・クラーク氏によるものだ。超ざっくりと内容を要約してみよう。
<中国の各種対艦ミサイルは急速に超高性能化し、かつ大量装備されている。もはや米海軍のミサイル迎撃システムだけでは対応できない。だから米海軍は敵艦を撃沈、またはミサイル発射基地を攻撃する対地攻撃力を獲得する必要がある>
つまり、米海軍はこのままでは中国のミサイルに負けてしまうということだ。在米の国防戦略コンサルタント・北村淳氏が解説する。
「率直に言って、米海軍はこれまで『自分たちこそ最強』という奢(おご)りがあった。現実的な脅威の出現を想定せず、まともな戦略を構築してこなかったのです。それでも、以前は中国軍の装備が旧式・低性能であったため問題はありませんでした」
ところが、中国軍のミサイルがレベルアップした現在では、そうも言っていられなくなった。
「日米同盟におけるミサイル防衛方針は、中国側の『数』に対し、日米側が『質』で守るというものです。しかし、数も質も向上した現在の中国の対艦ミサイルに対しては有効な戦略がない。中国側が日米艦艇に搭載されている対空ミサイルの対処能力を上回る数の各種対艦ミサイルを発射すれば、日米艦艇はほぼ無防備。はっきり言って、中国対艦ミサイルの天下です」(北村氏)
どうやらいつの間にか、アメリカの傘の下で日本が守ってもらえる時代が終わりを告げようとしていたようだ。
(取材・文/小峯隆生)
■週刊プレイボーイ14号「いつの間にか中国軍ミサイル大量配備で米海軍は“戦略的後退”?そして自衛隊が矢面に!」より(本紙では、さらに中国の脅威に晒される現状を報告!)