「辺野古新基地建設阻止」のキーパーソンのひとり稲嶺進・名護市長

3月23日、ついに翁長雄志・沖縄県知事が「新基地建設阻止のための知事権限行使」を決断した。防衛省沖縄防衛局に対して、辺野古・大浦湾での「海底作業停止」の指示を行なったのである。

沖縄の民意を無視したまま、辺野古・大浦湾に新基地建設を強行する政府の姿勢は日を追うごとに顕著(けんちょ)となっている。ついには防衛局が投下した巨大なコンクリートブロック(最大45t)が、仲井眞弘多・前知事が岩礁破砕許可を出した区域外の海底でサンゴを押し潰す事態にまで至った。

この取り決めに違反があった場合、知事は区域内の岩礁破砕許可も取り消すことができる。つまり、翁長知事の指示は極めて正当な判断であり、同時に「あらゆる手法を駆使して新基地建設を止める」と明言してきた知事の公約実現の具体的な一歩なのだ。

「辺野古新基地建設阻止」のもうひとりのキーパーソン、稲嶺進・名護市長はこうした状況をどう見ているのか?

辺野古新基地建設の地元、名護市の市長として2010年の初当選以来、「海にも陸にも新たな基地は造らせない」という公約を守り続けている稲嶺市長は、昨年1月には4000票の大差をつけて新基地推進派候補を破り、再選を果たした。

昨年は県知事選、衆議院選挙など主要選挙すべてで「辺野古新基地建設NO!」の意思が示された。そのうねりを最初につくり出した稲嶺市長がブレない姿勢を貫いている。そのことが、知事の権限行使を根っこのところで支えているのだ。

―稲嶺さんが名護市長の権限でできることをすべてやった上に、翁長知事が公約通り「あらゆる手法」を駆使して実際に新基地建設を止めようとすれば、これは鬼に金棒ということになりますか。

「はい。前知事の埋め立て承認に瑕疵(かし)がなかったか、第三者委員会の検証結果が出るのは夏頃といわれています。承認直前まで県は埋め立て申請に対して『これでは環境保全は不可能だ』と明確に表明していたのに、なぜ突然、前知事が埋め立て承認に至ったのか。その過程には大きな疑念が持たれていますので、この検証結果は承認の取り消しや撤回につながる可能性があり、とても重要です。

しかしその前に、翁長知事が海底に関するすべての作業中止の指示を出した。この意味は大きいと思います。これを無視して強引に作業を続けるのであれば、官房長官が繰り返し言われる『法治国家』を国自らが否定することになりますから」

翁長知事に求められる最も大きな決断

翁長知事が国と対峙して新基地建設を阻止する場合、最も大きな決断は前知事の「埋め立て承認」を取り消すか撤回するかである。

しかし知事は今回(3月23日)、その大きな決断以前に、いわば「第一の矢」として法的な手続きを丁寧に積み重ね、岩礁破砕許可取り消しを想定した「作業停止指示」を出した。

それに対して防衛局は農水省に不服申し立てをし、3月30日には林芳正農水大臣が「知事の指示を執行停止」とする決定を下した。

―今後、沖縄側が国の強引な対応に屈しないためにも稲嶺市長と翁長知事の二人三脚が求められるわけですが、不安はありませんか。

「私は最初から翁長知事を信じていますよ。那覇市長時代の翁長さんは保守系政治家であることを強調しながらも、ある時期から基地問題では新基地建設反対、オスプレイ配備反対の立場で県民運動のリーダー的な役割を果たしてきています。

翁長さんの言うように基地問題はイデオロギーではなくアイデンティティの問題であり、ウチナーンチュ(沖縄人)の誇りと尊厳をかけた戦いなのだという主張には私も共感し続けてきました」

翁長知事が強調し、稲嶺市長も共感する沖縄のアイデンティティとは何か。それを理解するヒントとして、翁長知事が選挙前から繰り返していた発言がある。

「戦後、長い間、沖縄の政治は自ら望んで持ってきたわけでもない基地を挟んで保守と革新に分かれて対立し『経済か平和か』といがみ合うような悲しい現実がありました。それを誰かが上のほうから笑って見下ろしていませんか、という話です。もう、基地と引き換えの経済振興策はいらないから、どうか本土の皆さんで基地をお引き取り願いましょう。今では米軍基地こそが沖縄経済発展の最大の阻害要因なのですから。沖縄のことは、沖縄県民自らが決めていきましょう」

それでも政府はこのまま強行工事を続けるのか、それとも沖縄の民意に従うのか。全国からもその行方が注目されている。

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(取材・文・撮影/渡瀬夏彦)

■週刊プレイボーイ16号(4月6日発売)「名護市長 稲嶺 進インタビュー『翁長知事と二人三脚の戦いはこれからが本番です』」より