国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

* * * 今年は戦後70年の節目。折につけ、中国側は日本へ「歴史問題」を突きつけてくるでしょう。この問題をうまく“処理”する方法はあるのでしょうか?

3月の上旬から中旬にかけ、中国でふたつの大きな会議が開かれました。日本でいえば国会に当たる全国人民代表大会(以下、全人代)と、経済界など各界の代表者が集まる全国政治協商会議(以下、政協)です。中国では全人代と政協を合わせて「全国両会」と呼び、政治から経済、軍事、貿易、社会問題など多くの政策課題を討議していきます。

両会は外交をメインテーマとする会議ではありませんが、今年は第2次世界大戦の終戦から70年ということもあり、外交についても多くが論じられました。その主なターゲットはもちろん日本です。

「日本が歴史問題にしっかり向き合ってこそ、中日関係は発展する」(2日、政協報道官)

「歴史問題というのは長い間、中日関係を困らせてきた。今こそ日本の当事者、指導者たちはこの問題をどう処理すべきか、ぜひ自問自答してほしい」(8日、王毅[おうき]外相)

さらに、両会が閉幕した15日の記者会見では李克強(りこくきょう)首相が、

「一国の指導者は、先人の業績を継承するだけでなく、その罪による“歴史の責任”も負わなければならない。(中略)日本の指導者が歴史を直視し、中日関係の改善と発展に一貫して取り組むなら新たなチャンスとなる」

と日本の安倍首相を牽制(けんせい)しつつ、「こちらには話をする用意がある」というニュアンスで中国的な圧力をかけてきました。

この閉会日の会見の席では、日本の朝日新聞の記者が次のような内容の質問をしました。

「戦後70年の今年、中国が『抗日戦争勝利記念日』である9月3日に軍事パレードを行なうことは、日本国民の対中感情を傷つけるのではないか?」

これに対する李首相の回答は以下の通りです。

「日本は中国人民に対し侵略戦争を行ない、大きな災難をもたらした。日本の民衆も被害者だ」

一部の軍国主義者が加害者で、一般の日本国民は被害者―ーこれは、中国共産党が一貫して用いてきた“二分法”のロジックです。

日本に対する中国の本音は?

ちなみに、軍事パレードの招待国について、王外相は「すべての首脳に門戸を開く」としていますが、このパレードの開催自体、中国から日本に対する“圧力”の一環という側面は否定できません。安倍首相は参加しない方向になる可能性が高いでしょうし、中国側もそう読んでいるでしょう。

しかし、ぼくはこの催しに安倍首相があえて参加するべきだと考えています。

本来なら外交がメインではない両会で、日本について数多くの議論があった理由は何か? もちろん、歴史問題を取り上げることで中国共産党の威信を高め、人民の支持を得るという内政的な狙いがあったでしょう。

ただし、李首相や王外相の言葉を丁寧に読み解けば、明らかに日本に対して「扉は閉じていない」という対日関係重視のシグナルを送っていることもわかる。中国共産党も、本音では日中関係のこれ以上の悪化は避けたいのです。

安倍首相にとって、パレードの現場が相当なアウェーであることは疑いようもありません。そこで無理に何かを公式発言する必要もなければ、歴史問題の解決を急ぐ必要もない。

しかし、その場で相手の懐に潜り込み、「歴史問題の解決に向け、そちら(中国側)はどんなことを考えているのか。双方向の努力をしようではないか」と直接聞き、対話を促すことができれば、日本国として歴史に真摯(しんし)に向き合う覚悟があるという意思、そして宰相としての器の大きさを国際社会に示すことができるでしょう。逆に、中国側は懐に入り込まれることで、ひとつ駆け引きのカードを失うことになります。

これ以上に効果的な日中関係改善方法があるなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/