アベノミクスで株価が上っても、日本の「地方」は消滅の危機に瀕しているままだ。その根底にあるのは、深刻な人口減少。

地方に人を増やすためにこれからの政治は何をすべきなのか? あるいは反対に、都市部が人が集中している今の状態は本当に悪いことなのか? 地方の現実をよく知るふたりの識者に語り合ってもらった。

ひとりは、実業家で投資家の山本一郎氏。最新技術動向や金融市場に精通する、データ分析と未来予想のスペシャリストで、東京大学政策ビジョン研究センターと慶應義塾大学SFC研究所が共同で立ち上げた「政策シンクネット」では、高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントを行なっている。

もうひとりは、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事で、内閣官房地域活性化伝道師の木下斉氏だ。

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山本 そもそも地方創生の議論の発端になったのは増田寛也さん(元総務大臣・元岩手県知事)が座長を務める日本創成会議・人口減少問題検討分科会が昨年5月に発表した「消滅可能性自治体リスト」と「ストップ少子化・地方元気戦略」。これを基に編集された『地方消滅』(中公新書)も話題になりました。

ところが、実はこれは“インチキ”と言ったら失礼ですが、正当性のある調査研究に基づかない変な議論になっている。ガセネタみたいなもんです。「東京対それ以外の地方」という大ざっぱな構図で人口問題を考え、地方に人口を残すために出産可能な20歳から39歳の女性が都会に出ないように移動を制限するべきだ、というような話になっていて。

木下 そもそもできないでしょう、そんなこと。「出産可能な女性は移動するな」って、いつの時代の話ですか。最初、こんな恐ろしい話を普通に掲げられて出口はどうなるんだろうと思っていたら、最近になって増田さんの論調が変わってきた。そう簡単にはできないとか、そういう言い方になっていますよね。

地方というものに幻想を抱いている

山本 人口学的にいうと、地方から東京に出てきたから出生率が下がるというわけじゃないんです。東京に出てきて下がるのは婚姻率であって、婚姻単位当たりの出生率はさほど変わらない。むしろ、地方に若い女性がとどまれば出生率が上がるという学術的な証拠が見当たらないのです。

日本全体の出生率の改善のためには、実は東京にガッと人が集まっているほうが役に立つかもしれない。「東京にいてちゃんと結婚しなされ」という政策を集中的にやったほうが現在の地方創生議論よりもはるかに現実的です。

木下 でも、個人的には「逃げるなよ」と思いますけどね。元総務大臣、元岩手県知事という立場の方が、ああやって統一地方選に向けた地方自治体への“補助金の出し口”の論拠をつくったわけじゃないですか。あれが本当にこれまでの地方政策を物語っていると思います。パッと何か言って、ガッとお金をつけて、しばらくするとみんな忘れ、同じことが何年後かに繰り返されるという。

山本 地方の話はいつも途中でレームダック(死に体)になる。「地方分権」の時も「国土強靱化」の時も今回の「地方創生」もそう。地方というものに幻想を抱いているというか、画一的に見すぎているんですよ。

都市人口というものを考えた時にはその都市が機能するための規模が必要で、人が集積することの大事さもあります。本来は東京があり、そのサテライトの地域があり、ある程度の規模の地方都市があり、そして存続できない地域(自治体)があり、という4段階くらいに分けて考えないとなりません。

木下 マーケットというか、現実の社会はすごく正直で都市化はどんどん進んでいますよね。人は集まって住んだほうが単位当たりコストも低いし、余剰なことをやらなくて済むから一番合理的。政治がそれを邪魔して分散させようとしている。

今は首都圏など人口集中エリアの子育て世帯の構造が変わっているわけですから、そこに適した政策をちゃんと打ち込もうというのが本来あるべき結論。それなのに、なぜ「地方に人を戻そう」みたいな話になるのか。

山本 出産可能年齢の女性だけじゃなく、「医師を張りつけろ」という話もあるんです。卒業後に地元でしばらくの期間勤務することを条件に都道府県が医学部の学生の学費を免除してあげるよ、と。それも一理ないわけではないんですが、症例数が稼げないから医師の腕が上がらない。やぶ医者を育成するような話ですよ。

木下 ちゃんと将来を考えている医師の卵は、むしろ地方の医大を選択しづらくなりますよね。

(構成/佐藤信正)