安倍内閣のイケイケ路線で安全保障政策が転換し、自衛隊の役割がどんどん海外へと拡大していく。でも、“わが軍”にはグローバル化する対テロ戦に対応する能力があるのだろうか?
例えば、政変や内戦で海外にいる邦人が多数取り残される…。過去に実際に起きているし、これからますます起きる可能性が高いシチュエーションだが、その時、自衛隊は国民を守ることができるのか? Q&Aで検証してみよう。
Q)過去に似たような事例はあるのか?
A)あるが、ほとんど外国に助けてもらった。
過去に政府のチャーター機が出た例が少数あるのみ。他はトルコなど親日国が善意で、あるいは諸外国が自国民を避難させるついでに「座席の余裕があれば」助けてくれたケースばかりだ。「国民の生命と財産を守るのは国家の責務です。イスラエルは1976年、ウガンダのエンテベ空港でハイジャックされた自国民105名のために特殊部隊を送り、銃撃戦で解放しました。これが現代のモデルになっています。交戦しなくても、自衛隊は保護と移送任務だけでもやるべきでしょう」(軍事評論家・菊池征男氏)
Q)自衛隊のどの部隊が出動するのか?
A)陸自の中央即応連隊が出動する。
2013年にタイであった多国間共同訓練「コブラ・ゴールド」で陸自の中央即応連隊(700名、宇都宮)が邦人退避訓練をしている。その時の様子を元傭兵の高部正樹氏が語る。「よく訓練されていて、スムーズにテキパキと行動していました。自衛隊は他国軍に比べて安心して見ていられました」
「保護」「救出」できない矛盾
Q)出動までに、どれくらい時間がかかるのか?
A)最短でも48時間はかかる。
自衛隊側の動きとしては、空自の輸送機C-130Hが最短48時間で中央即応連隊を乗せて離陸することが可能だ。具体的には、陸自の北宇都宮駐屯地内の宇都宮飛行場(滑走路1700m)に空自の小牧基地、入間基地などから輸送機C-130HやC-1が降り、中央即応連隊の部隊を乗せ出動する。
海自の輸送艦「おおすみ」などからヘリを使った邦人輸送も考えられるが、この場合は中東周辺までに20日前後はかかるだろう。
「現場の部隊が準備できても、これまでは法的な部分で手間取るおそれがありました。ですが、安倍政権が目指す法改正が進めば法的な派遣準備が早くなるので出動に要する時間も短くなるでしょう」(前出・菊池氏)
Q)現在の法律はどうなっているのか?
A)「輸送」はできても「保護」はできない。
94年11月の法改正によって、自衛隊法84条の3「在外邦人の輸送」という項ができた現行の自衛隊法。そのため、前項で紹介したルワンダの事例で起きたような批判は当てはまらなくなった。ただし、自衛隊法では「輸送を安全に実施できる」という見通しがなければ派遣はできないことになっている。つまり、「邦人輸送」はできても「保護」や「救出」はできないことになってしまう。
しかし、ここには大きな矛盾があると言わざるを得ない。そもそも、邦人が危険な場所に置かれ、安全ではないからこそ、わざわざ自衛隊が行くのではないか。もし安全が担保されているならば、チケットを買って民間航空機に乗れば十分だろう。
(取材・文/本誌軍事班[取材協力/世良光弘 小峯隆生] 写真/SASAGAWA PHOTO OFFICE)