中東のテロ組織「イスラム国」(以下、IS)と米国の戦闘が激化している。米軍は今月7日にIS掃討作戦の一環としてシリア反体制派約90人の戦闘訓練を開始したと発表した。

だが、戦場は地上だけではない。アメリカにとって、ISのサイバー空間における活動も封じ込めの対象だ。

ISはITをフルに活用している点に特徴がある。彼らはSNSやネット動画を利用して世界中からシンパを獲得。さらには、サイバーテロによって遠隔地への攻撃も行なうなど全世界を標的にした活動を繰り返している。

ISを自称するハッカーによる被害は全世界で5千件を超えた。今年1月にはアメリカ中央軍のツイッターのアカウントが乗っ取られ、軍の内部情報とおぼしき個人名や電話番号が公開される事件が発生。日本でも現在までに複数の自治体や民間企業のサイトが乗っ取り攻撃を受けている。いずれも、ISを象徴する黒旗の画像データや、IS系と思われるURLやメールアドレスへのリンクが貼りつけられた。

遠い中東から各国の機密情報にやすやすとアクセスし無差別に攻撃をするIS。だが、彼らのIT事情を調べてみると――。

■ネット環境は貧弱、戦略もなし

「ISのオマル・グラバ司令官は、一昨年10月の時点ではサムスンのスマホを使っていました。また、昨年2月頃に再会した時もフェイスブックを一日中眺めていましたね。トルコ国境の街の防衛責任者である彼は、アンテナを屋根に設置して隣国の電波を受信。スマホをパソコンに接続してネットを利用していました」

そう語るのは、IS支配地域に3回の潜入経験を持つジャーナリストの常岡浩介氏だ。

ISの指導者や中枢は「IT音痴」ばかり

ラッカなどIS支配地域であるシリアやイラク北部の中心都市には、指導部に営業を許可されたネットカフェがある。店内ではWi-Fiの電波が飛び交い、若者たちがスマホを片手に集団で盛り上がる光景も見られたという。

もっとも、常岡氏は「彼らはアクセサリー的にスマホを持っているだけ。普段は通話すらできない」とも話す。

なぜなら、内戦が続くシリア国内の携帯電話網は、国境地帯を除けばほぼ壊滅状態。ネットカフェもIS全域で見れば数軒程度だ。「ITを巧みに利用するテロリスト集団」という印象とは裏腹に現地の大部分ではネットがほとんど使えないというのである。

「ISの指導者のバグダディや組織の中枢を占めるバース党(イラクの旧フセイン政権の与党)の残党たちは『IT音痴』ばかり。ネットを積極的に活用した運動方針を思いつくような現代的なセンスは持っていません。

そもそも彼らにはネットを使って世界中から支持を得たいなんて思いも戦略もない。残忍でめちゃくちゃな行動に一部の人間が反応してくれたら十分、という程度の姿勢だと思います」(常岡氏)

だが、それならば世界を騒がせている宣伝動画の作成やサイバー攻撃は、誰が行なっているというのだろうか?

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(取材・文/安田峰俊)

■週刊プレイボーイ22号「『イスラム国』vsアメリカツイッター戦争が泥沼化して“世界監視”がやりたい放題に!?」より