SNSやネット動画を利用して世界中からシンパを獲得するテロ組織「イスラム国」(IS)。
「ITを巧みに利用するテロリスト集団」という印象の強い彼らだが、実はネット環境は貧弱、さらにその指導者のバグダディや組織の中枢を占めるバース党の残党たちは「IT音痴」ばかりだという。
それならば世界を騒がせている宣伝動画の作成やサイバー攻撃は、誰が行なっているのだろうか?
(前編記事⇒ 「実はイスラム国のIT事情は劣悪、指導者たちはIT音痴…ネットで支持拡大なんてウソだった?」)
■ISシンパたちの狂気と暴走
3月5日、米国の民主党系シンクタンク「ブルッキングス研究所」は、過去にツイッター上で確認されたIS関連のアカウントは合計4万6千件、平均フォロワー数は約1千人であったと発表した。多くは昨年9月から12月に開設されたという。
登録先の国名として最多は、IS支配地域外のサウジアラビア。他にもトルコやエジプト、クウェートなどの中東圏やアメリカ、イギリスなど、他国のアカウントが目立つ。
「これらの多くは、組織外の『シンパ』たちだとみられます。彼らは世界各地の無名のネットユーザーで、必ずしもISの指令下にあるわけではなく勝手に“応援”しているだけの人々。こうした人たちがISの宣伝動画の作成やサイバー攻撃の主な担い手になっています」
そう解説するのは、日本国内でIS関連のサイバー事情の調査を行なっている「サイバーディフェンス研究所」の上級分析官・名和利男(なわ・としお)氏だ。
名和氏によれば、宣伝動画の作成とサイバー攻撃は、それぞれまったく異なる属性を持った人々により担われているという。
「宣伝動画の作成者の一部は、イスラム原理主義を掲げ、ISに接近している別のテロ組織の関係者とみられます。米国などの情報によれば、彼らは現在、ISの関係者を通じて支配地域内で撮影した動画の元データを入手。最新の機材を用いて加工・編集し、宣伝動画に仕立て上げているようです」(名和氏)
ハッカーはイスラム教徒ではない人間も
一方、IS系のサイバー攻撃を担うハッカーたちは、ハマスのようなテロ組織の関係者とは限らないという。 彼らはいうなれば、世界各国に存在する「社会や自分の現状に不満を持つヒマ人」たちの集合体。イスラム教徒ではない人間すらも交じっている。
「自分が気にくわない対象を面白半分で集団攻撃する『2ちゃんねる』のネット右翼や、ハッカー集団の『アノニマス』などに近いイメージですね。ISというアイコンに便乗して世間を騒がせ、一種の自己承認欲求や幼稚な万能感を満たそうと考える人々がISのシンパを自称して、一連のサイバー攻撃の担い手となっているのです」(名和氏)
彼らが主に使うのはグーグルの検索窓にセキュリティ上の不備があるサイトをあぶり出すための特定の文字列を打ち込み、検索結果として表示されたサイトを攻撃する「グーグル・ドーキング」と呼ばれる手法だ。
「小学生にもできるほどシンプルなテクニックです。しかし、攻撃を通じてサイトの内容を改竄(かいざん)すれば、相手に与えるダメージは小さくありません」(名和氏)
名和氏は現在、彼らの正体(国籍、職業、年齢、性別などの個人情報)を知るための潜入調査を行なっている。
「中東圏のあるSNSにIT専門家を名乗ってダミー登録すると、時折ISメンバーを自称するアカウントから宣伝動画のデータとスカウトのメールが届くんです。私はリンク先のチャットルームなどに参加し、仲間のフリをして情報を得ようとしています」
匿名のユーザーたちを相手にした会話の応酬。IS支持者らしからぬ言動があれば、即座に追放される。だが、長い時間をかけて信用されると、よりコアなシンパが集まるサイトやチャットルームに招待してもらえるという。
「まずチャット開始前に1時間ほどかけて集中力を高め、開始後は心身ともに“ISのシンパ”を演じ切っています。しかし、潜入調査を1年以上続けましたが、いまだ彼らの正体は暴けていません」(名和氏)
(取材・文/安田峰俊)