国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。
* * * “問題国家”と見なされる中国・ロシアのトップが結びつきを強めているように見えます。この関係が今後の国際情勢をどう左右していくか。大いに見ものです。
先週のコラムでも触れた通り、5月9日にロシア・モスクワで「戦勝70周年記念式典」が開催されました。この式典を見て強く感じたのは、現在の国際社会はアメリカ、中国、ロシアの〝三国志〟という構図が、かつてなく鮮明になっているということです。
アメリカのオバマ大統領が式典を欠席した一方、中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席とロシアのプーチン大統領は首脳会談を行ない、合計32項目、約250億ドルもの経済協定を結んだ。欧米から経済制裁を受けているロシアを中国がインフラやエネルギー、金融などあらゆる面でサポートする内容で、特に高速鉄道の建設に対する巨額融資や高性能兵器の売買が注目されました。エネルギーに関しても両国の国有天然ガス会社同士で昨年、4000億ドルの協定が結ばれており、これからどう具現化していくのか注目されています。
両国は、現在の国際政治において最大のインパクトを持つ“問題国家”といえます。「アメリカも様々な問題を起こしている」という見方もあるでしょうが、アメリカは原則として法の支配、ルール、規範・秩序といった枠組みの中で行動しているのに対し、ウクライナ問題におけるロシアや南シナ海問題における中国は、ルールよりも実力行使をもって既成事実をつくり、異を唱える者は制圧し、現状を変更しようとしている。既存の秩序を破ることに対して遠慮がない―これがロシアと中国の外交姿勢です。
ただ一方、ロシアと中国の関係も決して“蜜月”ではありません。両国の同盟が失効してからすでに35年がたち、国民感情レベルでも特別な仲間意識はない。むしろ中国国内には「国際社会から問題視されているロシアと中国が組むのはリスキーではないか」という世論さえあるほどです。中ロが掲げる「戦略的パートナーシップ」とは、あくまでも互いの利益が合致する分野で手を組むという、冷徹で実利的な関係であるといえるでしょう。
アメリカは両国に対し、欧州や東南アジア諸国を巻き込む形で圧力をかけている。しかし、ロシアにはエネルギー資源、中国には急成長する経済と巨大市場という武器があり、グローバルに相互依存を深める国際社会においては、どの国も関係を断つことなどできないという現実があります。
ふたりの相性はぴったり?
そして、最も注目すべきは習主席とプーチン大統領の「個人的な相性」です。中国政府関係者から聞いた話ですが、習主席は2013年3月にロシアを公式訪問し、モスクワで首脳会談に臨んだ際、プーチン大統領に直接こう言ったそうです。
「我々は似ていますね」
時に強引とも思える手腕、威圧感あるオーラなど外から見ても確かにふたりには共通点がある。そんな人間が指導者として、大国としてのプライドや民族的ナショナリズムを掲げつつ国益を死守・拡大しようとすると、どうしても対外的な反発や不信を招いてしまう。国際社会で孤立しやすい状況は、ふたりに相互的なシンパシーすら抱かせているのです。
今回の式典で、習主席は歴史認識についても触れました。
「中ロ2ヵ国の人民は、世界の反ファシズム戦争(第2次世界大戦)の勝利の中で友好関係を高めていった。それを忘れない」
おそらくプーチン大統領も9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に中国・北京で行なわれる記念式典の席上で同様の声明を発表するはずです。
アメリカでは2016年11月に大統領選挙があり、オバマ政権はあと1年半で否応(いやおう)なく終わります。その一方で、習主席とプーチン大統領の“フォーメーション”は当分続いていく。新時代の三国志に注目しなくていいというなら、その理由を逆に教えて!!
●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/