本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い世の中を見つめ直す!

*** 「国民の命と平和な暮らしを守る大切な法律です。『スキのない構え』でさらに抑止力を高めます。戦争に巻き込まれることも徴兵制も、決してありません」

集団的自衛権の行使容認などを含む、「安全保障関連法案」の成立を目指す自民党は「法案が複雑でうまく国民に説明できていない。ビラを使って理解を得たい」として、前述のようなことが書かれた「平和安全法制の整備」と題した100万枚のビラを作り、街頭などで配ることにしたという。

100万枚というとソコソコの数。すでにこのビラを見た人もいるかもしれない。しかし、その中身は安倍首相や政府関係者がこれまで主張してきたことと変化はない。

多くの批判や反論を浴びたにもかかわらず、ただ同じ主張が繰り返されているだけで、そうした批判へのマトモな反論もなく、ただ「決してあり得ません」「絶対にあり得ません」で押し通そうという、スキだらけでお粗末な内容だ。

で、この政策ビラを見た当初は「あーあ、またかよぉ、メンドクセエなぁ…」と思いながら、そうした「ツッコミどころ」のひとつひとつに改めて反論し、このビラのデタラメ具合をツマビラカにしてやろうかと考えた。

だが、自民党がなぜ、このビラを100万枚もバラまこうと考えたのか? 彼らが、あるいは彼らからビラの制作を委託された「広報のプロ」たちがなぜこんなに「スキだらけ」のビラを作ったのかと考えた時、そうした反論に「あまり意味がないかもしれない」と気がついて、背筋が寒くなった。

なぜなら、このビラは初めから今回の安全保障関連法案の「ココがおかしい」「ココが危ない」といった一連の議論が「難しくてよくわからない…」、あるいは「複雑すぎて興味がない」という人たちを対象に作られたもの。このコラム流にいえば、要するに「衆愚対策」だからだ。

「難しいことはよくわからないけど、まあ、お国が大丈夫っていうなら大丈夫だろう…」という素直な衆愚たちを安心させられればそれでOK…というコンセプトで作られたビラだとすれば、こちらが細かいツッコミを入れても、なんの意味も持たない。

自国民が見くびられている!

今国会での答弁もそうした彼らの意識が透けて見える。安倍首相をはじめとした政府与党は野党の質問に正面から答えず、ただただ自分たちの主張を繰り返すばかり…。そりゃそうだろう。彼らが質問にきちんと正面から答えたら、あっという間に安保法制の矛盾が露呈してしまうからだ。

そうした現実から衆愚の目をそらし、「わが国への脅威」を強調して国民の危機感さえ煽(あお)れば、あとはいい加減な理屈と雰囲気だけで押し切れるだろう、という彼らの魂胆が今回の「ビラ」には込められていると私は考える。

そして今、試されているのは我々日本人だと考えてほしい。自民党や広報のプロたちに「この程度のビラで言いくるめられるだろう」と思われているのだ。ただし問題は、そういう「見くびり」がいつまで通用するかである。

なぜなら「国民」のレベルをバカにできないほど政治家も相当にバカだってコトが、最近バレバレになっているからだ。これまでのように「たかが衆愚」と見くびって自国民をバカにしていると、そろそろ手痛いシッペ返しを食らうかも。

というわけで国民の皆さま、自民党のビラに決してダマされてはいけません。

「国民の命と平和な暮らし」を脅かしかねない法律ですから、「スキのない構え」で政権の暴走に対する抑止力を高めないと日本が戦争に巻き込まれることも、将来的には徴兵制だってあり得ないとは言い切れません!

●川喜田 研(かわきた・けん) 1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある