元維新のブレーン・古賀茂明氏が『週刊プレイボーイ』のコラム「古賀政経塾!!」で、安倍政権と距離を縮める維新の党に苦言を呈す。
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14日夜、都内のホテルで行なわれた安倍首相と橋下大阪市長の会談が波紋を呼んでいる。
首相はこの会談で、橋下市長に安全保障関連法案(安保法制)の成立に向け、維新の党の協力を要請したという。
すでに維新は労働者派遣法と同時に審議している同一労働同一賃金法案について、自公との協議で完全骨抜きの修正をのみ、さらに派遣法改正案の採決にも出席する決定をしている。この上、さらに安保法案の審議でも維新の協力を得ることができれば、安倍政権の国会運営はぐっと楽になる。
安保法案の議決は与党単独による強行採決となる公算が大だった。しかし、野党第2党の維新も交えてじっくりと議論を重ね、粛々と採決したという形をつくることができれば、内閣の支持率低下を抑え、安保法制に対する批判もある程度は和らげることができるだろう。
それにしても、どうして維新はここまで安倍政権に助け舟を出すのだろうか?
露骨な擦り寄りと目されておかしくない安倍政権との連携は、橋下市長を中心とする「大阪維新の会」のメンバー(大阪系)が主導して進められている。
来年夏には参院選挙がある。おそらく橋下市長は自民と協調し、首相に貸しをつくることが維新の勢力拡大にプラスになると判断しているのだろう。
ただ、維新には民主党からの離党組や結いの党出身の議員もおり、この非大阪系グループは民主党との連携に意欲を示していた。しかも、集団的自衛権の行使に慎重な議員も少なくない。それだけに自民との協力路線を突き進む大阪系グループに異論を唱えてもよさそうなものだが、週刊誌が「分裂か」などと騒ぐわりには、表立った動きは見えない。
橋下市長の戦略は、実は複雑?
政界引退を表明したとはいえ、橋下市長の人気、発信力はいまだ健在だ。もし橋下市長が政界にとどまり、来年の参院選挙で全国を遊説すれば、維新は100万、200万の票を上積みし、比例区なら1、2議席を増やすことができるだろう。
安倍首相に擦り寄れば、維新にもタカ派のイメージがつく。しかし、橋下市長が掘り起こす膨大な票はそのマイナスを補って余りあると、非大阪系グループはソロバンをはじいているのだ。なんとも情けない。
党内のリベラル改革派の不満を抑え込み、安倍首相との距離を縮める橋下市長のパワーには敬服する。
橋下市長の戦略は、実は複雑だ。安保法制での審議と採決に協力して安倍政権に大きな貸しをつくる。だが、維新がまとめる対案は自民がのめる内容にはならない。そこで、しっかりハト派にもアピールする。そして自民と維新の論戦がテレビに流れ、民主は埋没。これで維新は自民と対峙(たいじ)する唯一の責任野党などと言うのだろう。
しかし、その実態は「戦争できる国づくり」を目指す安倍政権に協力することにほかならない。いっそ、自民と合流してタカ派自民の中の「改革派」に収まればいいのではないか。
そのほうがずっとスッキリして、国民もわかりやすいと思う。橋下市長、いかがです?
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。新著『国家の暴走』(角川oneテーマ21)が発売中