安倍政権が安保法案成立を目指す理由として「中国からの脅威にアメリカと協力して対抗していく」という言い分がある。しかし、本当にアメリカは日本を守ってくれるのか?

米国防シンクタンクで海軍戦略アドバイザーを務める北村淳氏はこう語る。

「実は最近、米軍やシンクタンクの戦略家たちの間では、中国の『恨み』という概念が話題になっています。中国があれほどまでに日本叩きに躍起になっているのは、恨みというファクターが大きいのではないか、と」

しかし、中国の「反日」の背景に日清戦争以来の歴史的経緯があるというのは、日本人なら大学生でも知っている初歩中の初歩。アメリカの政策に影響力を持つ軍やワシントンの専門家たちが、今さらそんなレベルのことを「発見」したと?

「はっきり言って、アメリカの多くの“中国専門家”や“日本専門家”のレベルは大したことはありません。中国語や日本語がまったくできない一般のアメリカ人にとっては“専門家”かもしれませんが…」(北村氏)

しかもアメリカでは、かつて「中国脅威論」を唱えていた保守系知識人の中ですら、中国への見方が変わりつつあるという。かつて米国防省・国務省の顧問を務めた経験を持つ、アメリカの某保守系シンクタンクのシニアアナリストはこう語る。

「アメリカ人は、伝統的に中国という国にロマンチックなイメージを抱いてきた。近い将来、中国は大国としての責任を自覚し、国際社会の中で重要な役割を果たすようになると楽観的に考える人々も多い。政界では民主党にその傾向が強いが、実は共和党員にも親中派は少なくない。中国は選挙になると、中国系アメリカ人を使って金を大量にばらまくからね」

米は日本側に「一歩引け」とプレッシャー?

長年、国ぐるみでアメリカに「親中派」を増やしてきた中国。ついに対中強硬派という“最後の砦(とりで)”にまで懐柔工作が進みつつある中、もし尖閣諸島で有事が発生したら、アメリカはどう行動するのか?

「日米同盟があるから大丈夫…などという甘い考えは捨てたほうがいい。日本にとって極めて重要な問題なのはわかるが、そもそもアメリカの選挙民で尖閣問題を知っている者はほとんどいない。政治家レベルでも、ほとんどは『海に突き出た岩』という程度の認識しかない。

しかも、もはやアメリカ経済は中国なしでは立ちゆかない。例えば、アメリカ人が一括払いで購入する商品の約85%は中国製だ。米中関係が極度に悪化すれば、アメリカ経済が大きなダメージを被るのは必至。そうなれば、次期大統領選で政権を維持することは難しくなる。

とはいえ万が一、尖閣で日中衝突となれば、同盟国として米軍は出動せざるを得ない。そういう状況を避けるためにどうするか? 本格的な武力衝突が起きる危険性が高まった場合、アメリカは中国ではなく、日本側に『一歩引け』とプレッシャーをかける可能性が高いだろうね」(シニアアナリスト)

太平洋を挟んで対立しているように見えて、実は複雑に絡み合っている米中両国。やはり、無条件に日米同盟を信頼するのはかなりリスキーなのかもしれない。

こうした構図は尖閣問題のみならず、南シナ海でも変わらないようだ。前出の北村氏はこう語る。

「オバマ政権は南シナ海で中国が“人工島”を建設することに対して強硬姿勢を示していますが、あれは単なるポーズにすぎません。もし本当にやる気があれば、空母艦隊や海兵隊を積載した水陸両用艦隊を南シナ海に派遣し、中国を威圧しているはず。

中国との対立を深めたくないオバマ政権は、中国の脅威に直面している日本とオーストラリアを言いくるめ、南シナ海のパトロールなどに従事させるつもりなのです」

安倍政権はそんなこと百も承知で、それでも「アメリカに忠誠を誓うのがベター」と冷静に判断しているのだと信じたいが…。

(取材・文/小峯隆生)