本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い世の中を見つめなおす!

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憲法学者の小林節(せつ)慶應義塾大学名誉教授に初めてお目にかかってから、かれこれ2年以上になるだろうか。

当時、週プレで改憲問題の特集を担当していた僕は「改憲派の論客」として知られる小林センセーにインタビューするため、慶應大学の三田キャンパスにある研究室を訪ねたのだ。

小林節、通称“コバセツ”といえば、慶大法学部の名物教授として有名だったし、何しろ改憲派の憲法学者にして「自民党のブレーン」としてもその名を知られていた人物なわけで、正直、かなりキンチョーしながら研究室のドアを叩いたのを思い出す。

だが、実際の小林センセーは想像と違って、威張ったところがまったくないとても気さくで、しかもいい意味で人間くさい方だった。こちらの質問に対する答えも常に明快でよどみがなく、何より話がわかりやすくてオモシロイ!

当時の僕は、どちらかといえば「護憲派」に近い立場だったのだが、心のどこかにモヤモヤとした迷いがあったのも事実。そんな「迷い」を見透かすように急所を突いてくる小林センセーの論理的な言説に、1時間足らずでまんまと攻略され、「護憲的改憲派」に改宗して小林研究室を後にしたのを今でも覚えている。

以来、「ウエルカムだから、いつでも遊びにおいで!」という小林センセーのお言葉に甘え、僕は憲法問題で何かあるたびに小林センセーの元へと通うようになった。

改憲手続きを定めた憲法96条の先行改正を狙う安倍政権の動きを「改憲の裏口入学」と断じ、集団的自衛権の行使容認を含んだ昨年の閣議決定を「憲法泥棒」と切り捨てた小林センセー。

繰り返すが、もともと「タカ派の改憲論者」「自民党のブレーン」だった小林センセーは、いつしか共産党の機関紙『赤旗』に識者として登場し、今ではまるで民主党のブレーン(?)みたいな立ち位置になっている。しかし、その間も常に一貫しているのはセンセーの「憲法」や「立憲主義」に対する誠実な態度だ。

「こんな政権は国民が選挙で倒せばいい」

「イデオロギー」なんて小難しい言葉を使わなくても、政治的な立場は人それぞれ違うし、いろいろな考え方があってもいい。

ただし、その国の背骨を成す「憲法」を誠実に尊重し、その憲法に基づいて国を治める「立憲主義」が守られなければ、そもそも民主主義なんて成り立たない。

ガチガチの教条主義者ではなく、むしろ清濁(せいだく)併せのむ、人間くさい現実主義者の側面を持つ小林センセーだからこそ、この大原則は絶対に譲らないし、曲げられない。逆に、その大原則さえ共有できるなら自分とは異なる意見にも謙虚に耳を傾け、相手に「理」があると思えば、自分の考え方も変えるほどの柔軟さが小林センセーのすごさであり、オモシロさなのだ。

安倍政権が「暴走」を重ねるたびに絶望的な気持ちになり、思わず愚痴る僕に対して、いつも「大丈夫、僕は絶対に諦めないし、決して悲観していない。こんな政権は国民が選挙で倒せばいいんだ」と語っていた小林センセー。

僕はそんな姿を見ながら「でも日本人は衆愚ですからねぇ」と半信半疑で諦め気味だったのだが、先日、国会で小林センセーを含む憲法学者3人が安保法制を「違憲」と断じたあの日から、なんだか風向きが変わったように感じるのは気のせいか?

安倍政権が「憲法」を軽んじ、「立憲主義」を無視し続けるなら、センセーは絶対に許さず徹底的に攻撃を続けるだろう。その結果、問題の本質をわかりやすく、オモシロく伝える「コバセツ節」で人々が「何か変だぞ」と気づいたら…。コリャ、ひょっとすると、ひょっとするかもしれないぞ!

●川喜田 研(かわきた・けん) 1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある