読売新聞が官邸に宛てた抗議文の一部。山口俊一内閣府特命大臣や河上正二消費者委員会委員長による謝罪を、なんと菅義偉官房長官にお願いしている 読売新聞が官邸に宛てた抗議文の一部。山口俊一内閣府特命大臣や河上正二消費者委員会委員長による謝罪を、なんと菅義偉官房長官にお願いしている

強引な訪問販売が一向に減らないことを消費者庁が新聞業界に注意したーー。

しかし、業界のトップは反省するどころか逆ギレ…! 傲慢(ごうまん)な新聞業界を週刊プレイボーイ本誌でコラム「古賀政経塾!!」を連載する古賀茂明氏が斬る!!

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読売新聞社長から飛び出した〝失言〟について古賀氏はこう話す。

「読売新聞が消費者庁などに送りつけた抗議文が物議を醸(かも)しています。事の発端は6月10日に開かれた内閣府消費者委員会の『特定商取引法専門調査会』でのやりとりでした。何度断ってもしつこく勧誘するなど訪問販売のトラブルは絶えません。そのため、この委員会では『訪問販売お断り』のステッカーを張った家への訪問を原則禁止する新制度の導入を検討していました。

訪問販売トラブルが最も多いのは新聞ですが、訪問販売の規制に最も強く反対しているのも新聞業界なんです。そこで委員らは日本新聞協会の理事でもある読売新聞東京本社の山口寿一(としかず)社長をヒアリングの席に招きました。その山口社長の口から『失言』が飛び出たのは、委員会が始まって2時間40分が過ぎた頃です。

山口社長は新聞業界の訪問販売の現状を説明する中で『断られたけど、やはり(新聞を)取っていただくということも現実には多々あるんですね』としゃべってしまった。その瞬間、委員たちから失笑が漏れました。中にはガマンできなかったのか、机に突っ伏して笑い声を上げた委員もいたと聞いています。

特定商取引法は一度断られた訪問販売の『再勧誘を禁止する』と定めています。ところが山口社長は新聞業界が違法な再勧誘をしていると、自ら認めるような発言をしてしまった。これでは失笑されるのも当然です」

新聞の訪問販売で、いやな目に遭った読者も多いはず。国民生活の調査、研究を行なっているNPO法人「国民生活センター」によると毎年9500~1万件前後の苦情があり、その件数は訪問販売のカテゴリーで10年連続のワースト1位だ(2005年から2014年)。また、苦情者の平均年齢は05年の51歳から14年には64.3歳と高齢化している。

国民生活センター相談情報部の丸山琴野(ことの)主査もこう言う。

「手口が悪質になってきています。最近、液晶テレビや掃除機などの高額景品をだしに、判断力の鈍った高齢者に長期契約を結ばせる事例が増えている。1年2ヵ月の間に半年契約などを8回もサインさせ、計5年もの契約を迫ったり、契約終了時が100歳を超える超長期契約をさせるケースもありました。しかも『そんな高齢になるまで新聞を読み続けられない』と家族が解約を申し出ても、のらりくらりかわして、なかなか応じようとしません」

高齢者に高額景品をちらつかせ、何度も訪れては長期契約に持ち込む…新聞業界では、かなり強引な訪問販売がいまだに横行しているのだ。

政権と癒着し圧力か…

古賀氏が続ける。

「失笑された後の読売新聞の行動にあきれました。山口社長はよほど腹の虫が治まらなかったのか、『委員会の運営が異常かつ不当』だとして河上正二(しょうじ) 消費者委員会委員長、板東(ばんどう)久美子消費者庁長官らに抗議文を送りつけました。

しかも、菅義偉(すが・よしひで)官房長官にまで抗議文のコピーを渡し『適切な対応を』と求めたんです。この抗議により、6月24日に開かれた専門調査会で河上委員長は『参考人(山口社長)が不愉快な思いをされた。大変残念で申し訳ない』と謝罪してしまいました。

また、自民党は内閣部会消費者問題調査会合同会議に消費者庁を呼びつけました。そこで、読売側に立った議員から規制強化に反対の声が上がったと聞きます。読売新聞を応援しようとしている自民党の意図を感じます」

この顛末(てんまつ)に関して、消費者行政に詳しい専門家が内情を暴露する。

「消費者庁から新聞社に強引な販売訪問をやめて、とお願いすることもあります。しかし新聞社側は『社と販売店は別経営。販売店の独自判断でやっているだけで、新聞社としてあずかり知らない』と言い抜けるんです。調査会の席上でも、新聞業界のある関係者が『全国に新聞販売店は1万8千店あるが、苦情は年間1万件ほど。そのことを踏まえれば、1年間で問題のある訪問販売行為をしたのは、全販売店の半分ちょっとぐらいだ』と、うそぶいたこともありました」

この反応を見ている限り、10年連続で苦情件数ワースト1位という事実を新聞業界が本当に反省しているのか、甚(はなは)だ疑問だ。

もはや報道機関とは呼べない

これらを踏まえて古賀氏はこう断罪する。

「読売新聞が菅官房長官、つまり官邸に善処を求めたのは大問題です。これは要するに『オレたちは現政権とツーカーなんだぜ』と消費者庁に誇示してみせたということ。権力の監視・批判をするのがメディアの役目なのに、距離があまりにも近すぎる。権力との緊張関係がまったく感じられません。

しかもその後、あるメディアが国民生活センターに寄せられた苦情件数を新聞社別に見て、読売新聞がトップだったことを報じると、今度は『情報が漏れている。調査会での情報管理を徹底すべし』と再び抗議に出たんです。

報道機関は権力が隠したい情報、権力に不都合な事実を暴き、国民に知らせるのが仕事です。なのに、読売新聞は『情報を漏らしたヤツはけしからん』と怒り狂っている。マスコミが政権を利用して、自社に不都合な動きへ圧力をかけようとしているのです。ひどく矛盾している。もはや、読売新聞は報道機関とは呼べない。それが私の見解です。

若い人を中心に新聞離れが進んでいます。新聞への信頼も日々薄らいでいる。今回の読売新聞の行動は、そんな新聞業界の凋落(ちょうらく)をさらに早めるだけではないのか? そう思えてなりません」

古賀茂明(こが・しげあき)

1955 年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。新著『国家の暴走』( 角川oneテーマ21)が発売中