本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い世の中を見つめなおす!

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「市長の任期はやり遂げるが、それ以降はもう政治家はやりません」

大阪都構想の賛否を問う住民投票で、有権者にNOを突きつけられた橋下徹大阪市長が政治家引退の意向を表明したのは5月17日のこと。

その橋下氏が「維新の党」を離脱し、新たに「関西維新の会」の設立を目指すのだそうだ。報道によると党の運営、特に代表選の方法や政党交付金の扱い方について、ご不満なのだとか…。

7月4日に大阪で行なわれた「大阪維新の会」の会合では「原点に戻り、単独でやっていける仕組みに作り直さなければならない。維新の理念は地方分権であり、関西に視野を置くべきだ」と語り、「関西の単位でいつでも国政政党にできるようにする」と新党結成への意欲を示したという。

「おいおいアンタ、政治家を引退したんじゃなかったのかよ?」と思わず突っ込みたくもなるが、橋下氏は一応「市長は任期までやる」と言っているので、任期満了の12月18日までは「現役の政治家」ということなのだろう。

だがその橋下氏、引退の意向を表明した5月の記者会見では次のように語っている。

「自分なりに悔いのない、政治家としてこれまでの7年半思う存分やらせていただいた」、「戦を仕掛けて(反対派を)叩き潰(つぶ)すとまで言ったが、こちらが叩き潰された。これが民主主義なんです」、「僕は今回、住民の皆さんの気持ちをくめていなかった。そういう人が政治家をやってはいけない」

たった2ヵ月前にそんなコトを言っていた人間が、つい先月6月14日には維新の党の松野頼久代表の頭越しに安倍首相と3時間にも及ぶ会談を行ない、党執行部の方針が気に入らなければ、大阪維新の党の「手勢」とともに党離脱や新党結成をチラつかせる…。その「言葉」と「行動」のギャップに強い違和感を覚えるのは、果たして筆者だけだろうか?

「言葉」と「行動」のギャップに強い違和感

ちなみに、安倍首相との会談後には、自身のツイッターで「民主党という政党は日本の国にとってよくない」と発信。民主党との連携や「野党再編」の可能性を模索する党内の動きを強く牽制(けんせい)するあたり、水面下でのつながりが指摘される「安倍-橋下ライン」を、自身の政治家としての生命線として捉えているようにも見える。

彼にとって「政治家」という言葉の定義がなんなのかはよくわからないが、一般的な感覚で言わせてもらえば、最近の橋下氏の言動は以前にも増して「政治的」だ。

でも、あなたは今年12月の任期満了をもって「政治家を引退」する人なんだよね? しかも「民主主義に叩き潰された」と、ある意味、政治家としての敗北を宣言したあなたが今やっているコトは一体なんなのか?

ご本人はメディアの取材に対して「(関西維新の会の話は)知らない」と話しているらしいが、何しろ橋下氏は「2万%出馬はない」と語っていた、2008年の大阪府知事選で政治家デビューを果たした人物である。

ウソも方便…すべてを「あの人らしい」のひと言で片づける人もいるだろう。だが「政治家」の言葉の重さや責任って、本来、そんなに軽いモノではないはずだ。

くどいようだが橋下氏は、5月の記者会見ではこうも話していた。

「僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です。敵をつくる政治家は、必要とされる時期にいるだけ。権力なんて使い捨てでいい。敵をつくる政治家が世の中にずっといるのは害だ。それが健全な民主主義というものです」

橋下さん、その言葉に2万%同意しますよ。だからもう、この国にあなたはいらない!

●川喜田 研(かわきた・けん)1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある