国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。
*** 日本では最近、日韓関係について「もういいよ。韓国とは付き合えない」といった諦めの声が目立ちます。現状打開の手段はあるのでしょうか?
先日も世界文化遺産の登録をめぐる交渉が話題になりましたが、近年の日韓関係はお世辞にも良好とはいえません。今回はアメリカと中国の視点から、この問題を考えてみましょう。
まず、両国と同盟を結ぶアメリカでは日韓関係の悪化を懸念する声が非常に多い。そこに中国がつけ込んで、韓国の取り込みを図っていると見ているからです。
実際、経済面では中韓は急速に接近しています。2013年の2国間貿易額を見ると、日中の3119億ドルに対し、近年大幅に伸びている中韓は2742億ドル。2017年頃には中韓が日中を上回るとの予測もあります。
対中国・対北朝鮮を念頭に、韓国に米軍を駐留させているアメリカは、この流れを警戒します。密接な経済関係を糸口に中国が安全保障面でも韓国への働きかけを強めるー―例えば、南シナ海や尖閣(せんかく)の問題について韓国が中国寄りにシフトするようなことになれば、北東アジアの安全保障をめぐる勢力均衡が揺らぐからです。
アメリカにとって、日韓関係の重要性は3点に集約されます。
【1】自由民主主義の定着……北東アジアで自由民主主義という制度・価値観を制度的に体現しているのは日本と韓国、そして台湾。アメリカの同盟国である日韓がいがみ合っては自由民主主義を広める使命などおぼつかない。
【2】地域の繁栄……中国を除けば、日韓両国は北東アジアで最大のGDPを持つ。“アジアの世紀”といわれる今、日韓はFTA(自由貿易協定)などオープンな関係を築き、地域の発展を引っ張っていく責任がある。
【3】中国に対する抑止力……中国の発展自体はもちろんいいことだが、その過程が不健全、あるいは暴走気味な場合、日韓は政策や戦略を共有して中国を牽制(けんせい)しなければならない。自由民主主義の根幹である情報の透明性、法やルールの遵守をもって、中国に言うべきことを言っていくべきだ。
中国の見解、そして日本の課題は
一方、中国から見ると、日韓関係はどうあってほしいか――。これには一見、相反するふたつの考え方があります。
【1】イデオロギーの相違や地政学的な問題はあるけれど、近隣地域の平和と発展を考えれば、日韓関係は適度に安定してほしい。
【2】とはいえ、アジアで中国が影響力を拡大するために日韓の距離は適度に離れていてほしい。
中国が経済関係を通じて韓国に接近し、歴史認識や領土問題を巧みに利用しているのは、【2】の思惑が強く働いた結果といえます。
ただし、中国としても日韓関係を自らの手で「割(さ)きすぎる」ことは得策ではありません。露骨なやり方をすれば、現在それなりに良好な米中関係にヒビを入れてしまう可能性がある。中国から見ても、日韓関係は悪ければ悪いほどいいわけではなく独自のバランス感覚を持って接しています。
さて、もちろん日本にとって日韓関係のさらなる悪化は百害あって一利なし。問題は今後どのように対話していくかです。日本の学者の中には「もう韓国はどうでもいい」と感情的にさじを投げる人もいるほどですから、2国間だけで解決するのは難しい段階にあると言わざるを得ません。
ひとつの考え方として、「3国フレームワーク」を活用する手があります。例えば、今年3月の3国外相会議の席で、年内に3国の首脳会談を開くという目標が設定された「日中韓」のフレーム。あるいは両国と同盟を結ぶアメリカを巻き込んだ「日米韓」のフレームも有効でしょう。
そして、もうひとつが「日朝韓」。日本は拉致問題、韓国は南北関係の改善という命題があるので、このフレームで対話を促進しつつ日韓関係も深めていくのです。
これに勝る関係改善の糸口があるというなら、逆に教えて!!
●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!