衆院を通過した集団的自衛権は、これから与党が過半数を占める参院での審議となり、成立はほぼ確実となる見通しだ。
しかし、法案の衆院通過後の世論調査で安倍政権の支持率が下落したように、世の中の雰囲気は与党にとって決して順風とはいえない。さらに、来年の7月には参院選も予定されている。
そこで落選を怖れた参院議員たちが、世論のプレッシャーを感じて審議や採決をグダグダにしてしまったら、長期政権が確実視されていた安倍政権が来年中にも崩壊する可能性さえあるという。農林水産大臣秘書官を務めた経歴を持つ政治評論家、池田和隆氏が解説する。
「元々、安倍首相は憲法改正を最大の目標のひとつにしていました。不穏な世界情勢に対応するために憲法を改正すべきという大義名分もあった。憲法改正には国民的な議論が必要で、それには長い時間を要するという理由で長期政権を目指していたはずです。そのために“18歳選挙権”も実現させたわけです。
ですから本来は、高い支持率のうちに憲法改正に取り組むべきだったのです。しかし安倍さんは順番を間違えてしまった。誰に吹き込まれたのかわかりませんが、突然アメリカでの演説で今年の夏までに安保法案を成立させると約束してしまった。これは致命的なミスです」
どのあたりが致命的なのだろう?
「憲法を改正する前に、憲法解釈の変更で無理やり集団的自衛権の行使容認をやってしまったのなら、もはや憲法を改正する必要も大義名分もなくなってしまったからです。解釈の変更でなんでもできちゃうのなら、わざわざ憲法を変えなくてもいいじゃないかとなってしまう。安倍さんは憲法の価値をさらに自ら貶(おとし)めてしまったのです。
それと同時に、長期政権化の大義名分も危うくなりかねません。憲法改正に向けて国民的な納得を得る時間を要するから長期政権だったわけですが、もはや支持率から見ても憲法改正は無理でしょうからね。
特にやれることもない状態で政権にしがみついていると思われれば支持率は下がる一方ですし、そうなれば選挙に勝てないから、自民党内から“安倍おろし”の動きが活発化する。もう党内がバラバラに空中分解することが目に見えています」(池田氏)
次期衆院選に向けて“勝てる顔”を?
では、安倍政権が空中分解するXデーはいつ?
「来年の参院選で自民党が単独過半数を割ることになれば、責任論が巻き起こるでしょうね。公明党と合わせても過半数を割ったら衆参ねじれとなって再来年以降の予算審議もままならなくなってしまう。
自民党議員のほとんどは、次期衆院選に向けて“勝てる顔”を総理にして臨みたい。特に1、2年生議員たちは当選できるかどうか、結局、党の顔で決まりますから。となると、小泉進次郎さんが出てくる可能性も十分にあると思います。
安倍さんは小泉(純一郎)さんを尊敬しています。その息子に禅譲する形なら身の引き方としても格好がつきますしね」(池田氏)
安倍政権は、東京オリンピックが開催される2020年までの長期政権も可能といわれてきた。しかし憲法改正よりも先に集団的自衛権に手をつけてしまうという“順番のミス”で状況が一変してしまったのだ。
もはや集団的自衛権の成立は待ったなしの状況と言わざるをえない。しかし、来年の参院選で自民が敗北すれば、国民の声を政権に届けることはできる。
せっかく国会議員という立場を得ながらも、おかしなプラカードを掲げてTVに向かって自己アピールする民主党議員たちよりも、はるかに影響力があるのは、私たちが持っている「投票」という権利なのだ。
(取材・文/菅沼 慶)