国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

*** アメリカ政治関連の報道を見ていると、しばしばシンクタンクの名前が登場します。彼らは政界でどのような役割を担っているのでしょうか?

この1年間、ぼくが拠点を置いたワシントンは、アメリカの政治の中心地。この街の特徴のひとつに、何百に及ぶ「シンクタンク」の存在があります。

日本でシンクタンクといえば、企業が所有する市場調査や戦略立案のための機関をイメージする人が多いでしょう。しかし、ブルッキングス研究所、カーネギー国際平和基金、戦略国際問題研究所(CSIS)といったワシントンのシンクタンクはひと味違う。ひと言でいえば、特定の企業や業界ではなく、国の政策立案過程にコミットしているのです。

彼らは連日、イベントを開催します。各国要人の講演をセッティングしたり(安倍首相が「ジャパン・イズ・バック」と宣言したのはCSIS)、ホットな話題について政策のキーマンや有識者を呼び、パネルディスカッションを主催したり――これを“アジェンダ・セッティング”と呼びますが、要は世の中の関心事について、いち早く専門的かつ政治色の強いイシューを提起しています。これによって公開議論を促(うなが)し、政策に影響を与えるわけです。

例えば今年3月、イギリスのアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加にアメリカ政府が反対を示した際は、ニューヨークに本部を構える外交問題評議会(CFR)の中国問題専門家エリザベス・エコノミー氏が「アメリカは蚊帳(かや)の外で批判するより、AIIBの中に入って影響力を行使したほうが生産的だ」と提言。様々な議論が後に続きました。話題に対するレスポンスの速さ、対案も含めたクリティカルなビジョン提起は、まさにアメリカのシンクタンクらしい特徴です。

ブルッキングスは民主党、CSISは共和党というように、シンクタンクの主張が特定の政党と近いケースはある。しかし、基本的には寄付や委託事業で成り立っており、表向きには「リサーチは中立で、どの国家・政党の味方もしない」とうたっています。露骨な癒着や不正が発覚すれば、信頼は地に落ちるでしょう。

中国でシンクタンクブーム、一方で日本は…

また、シンクタンクにはアメリカ政治を形づくる“人材プール”という役割もあります。

例えば、オバマ政権のスーザン・ライス大統領補佐官はブルッキングス出身。今年2月に「国家安全保障戦略」を発表する直前、古巣で講演し、各国メディアや専門家の前で戦略的にホワイトハウスの意思を発信しました。また、2009年から11年まで国家安全保障会議アジア上級部長を務めた中国専門家のジェフリー・ベイダー氏もブルッキングス出身で、退職後は再び古巣に戻っている。政権が求める人材を送り込み、その経験を評価して再び呼び戻す――ワシントンのシンクタンクを象徴するダイナミズムです。

実は最近、中国の関係者が頻繁(ひんぱん)にワシントンを訪れています。目的はシンクタンクの設立・運営方法を学ぶこと。習近平((しゅうきんぺい)国家主席が「新しいタイプのシンクタンク設立」を提唱して以来、中国ではシンクタンクブームが巻き起こっており、2020年頃にはアメリカに次ぐ“シンクタンク大国”になっているかもしれません。

一方、日本では「政策決定を力強く行なうためのシンクタンク」という戦略的視点は薄いようで、新たに増やそうという動きも特に見られません。これでは、いつまでも政治は官僚依存のまま。安倍政権は“ゆう活”をうたい、霞が関の官僚に早い帰宅を推奨していますが、ただでさえ国会対策や事務作業などで多忙な彼らに政策立案まで背負わせている限り、そんなことは夢物語でしょう。

自国における政策専門機関をどう設立するか。そして、連携を深める米中のシンクタンクでどう発信していくか。現状にあぐらをかいていればいいというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!