「来夏の参院選で農協組織票が欲しい安倍首相は、バラマキ予算を認める可能性が大」と予測する古賀氏

先日、ハワイで12ヵ国が結集し開催されたTPP交渉は、最後の協議となるかが注目されたが結局、不調に終わり、次回に持ち越された。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、TPP交渉で既得権益に腐心する安倍政権の内実を明かす!

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TPPが成立すれば、参加国間の貿易や投資が活性化し、各国に多大な経済的メリットをもたらすと主張されてきた。だが、安倍政権の言動を見る限り、その主張は怪しい。TPPを通じて日本を改革するどころか、むしろ既得権益を温存しようという動きが目につくからだ。

例えば、このところのバター不足。相変わらず品薄、高値が続いている。同じ乳製品である牛乳やチーズは十分に足りている。なのに、バターだけが品薄なのは「農畜産業振興機構」という農水省所管の独立行政法人がバター輸入を独占しているからだ。

バターが足りなければ、商社などが輸入に動く。それが自由主義経済だ。国内の農家を保護したければ、所得補償などで守ればよい。しかし、日本では国内の酪農家を保護するとの名目のもと旧社会主義国のようにバター輸入が国家貿易として統制され、この機構だけに輸入の数量や時期を決める権限が与えられている。

しかも、海外産バターには高率の関税(1次関税35%、2次関税29・8%プラス1㎏当たり179円)に加え、最大806円/㎏もの輸入差益が上乗せされる。輸入差益は手数料として機構の収入となり、職員の給与などに充てられる。給与は高額で、理事長で1600万円を超える。機構には10人の役員がおり、その半分は農水省OBなどで占められている。

なんのことはない。バターが品薄になっているのは、機構が輸入の時期や数量の判断を誤ったためだったのだ。しかも農水省の有力な天下り先になっているため、これだけひどい独立行政法人なのに改革の論議すら行なわれなかった。

バター不足の中で輸入を制限しているのは、誰がどう見てもおかしい。このため、日本の消費者に代わってニュージーランド政府が、この制度を問題視した。しかし、政府は即時廃止すべき機構の差益取り分を、農水官僚に気を使ってか、10年かけて廃止するという。

TPP妥結後は“補助金分捕り作戦”

安倍政権のTPP交渉はこんな異常な利権構造を温存したまま進められている。本来なら、TPP交渉をきっかけに、この機構だけでなく成長を阻害する組織やシステムを見直すべきなのに、さっぱり実行に動く気配がない。これではいくらTPPを結んだとしても、日本の経済が元気にはならない。

TPP妥結後の動きは予測できる。農業についていえば、これから自民党農水族議員と農協による“補助金分捕り作戦”が始まるはずだ。

農水省はTPPにより、日本の農業生産が3兆円減ると試算している。おそらく、TPP合意の中身などおかまいなく、最初は常套手段の高めのタマで「3兆円を補填(ほてん)しろ」と、補助金=税金によるバラマキ要求を出してくるだろう。

しかも、来夏の参院選で農協組織票が欲しい安倍首相は、バラマキ予算を認める可能性が大である。結局、安倍政権は「国益」ではなく「既得権を守る」通商交渉をやっているのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21 )

(撮影/山形健司)