本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い世の中を見つめなおす!

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安倍内閣の支持率が、ここにきて急激に下がり始めている。

安保関連法制の強行採決直後に行なわれた『毎日新聞』の世論調査では、支持率35%に対して不支持率が51%。政権寄りといわれる『読売新聞』の世論調査ですら支持率43%、不支持率49%と、ついに不支持率が支持率を逆転した。

安倍首相は尊敬するおじいさま、岸信介元首相が1960年、世論の強い反対を押し切って日米安保改定を強行した例を引き合いに「支持率のために政治をやっているわけではない!」と強気の姿勢を見せているが、足元の与党議員、特に来年夏の参議院選を控えた議員たちは「風向きの変化」に気が気ではないはずだ。

これまで安倍首相が党内の異論を封じてこられたのも高い「内閣支持率」があってのこと。仮に来年の参院選で自民党が「大敗」を喫するようなコトになれば、首相や党執行部の責任問題は避けられないだけに首相自身も内心は穏やかではないだろう。

で、あらためて思ったのが「内閣支持率」って、一体なんなんだという素朴な疑問だ。今回の強行採決は少々荒っぽかったかもしれないが、それにしても今、安倍政権がやろうとしていることのほとんどは、政権が成立した時点からある程度予想できたコトばかり。

それにもかかわらず、これまで安倍政権の「高い支持率」を支えてきた人たちは安倍政権の何を「支持」し、何に「信任」を与えてきたのか? そして、その人たちがここにきてどんな理由で「不支持」へと回ったのだろうか?

もちろん、現実として政権担当能力がありそうな野党が存在しないことによる「消去法」での支持もあっただろう。また、大規模な金融緩和や規制緩和といった経済政策がもたらす「実利」や、それに伴う株式市場の高騰を支持した人もいるかもしれない。

強行突破を繰り返せば支持率は落ちる

だが、安倍政権を支持してきた層の少なからぬ人たちが、特段の理由もないまま「ただなんとなく」政権を支持してきたこと……言い換えれば、有権者の政治に対する高い「無関心率」が、これまで安倍内閣の「高支持率」を保ってきたひとつの大きな要因だったとは言えないだろうか?

ところが、一連の安保法制をめぐるやりとりの中で、政治に無関心だった人たちが「なんか変だぞ」と政治に関心を持ってしまった。

これまで「なんとなく」政治に白紙委任状を与えてきた人たちが、立ち止まって自分で考えるようになった途端、目の前で起きている景色は別の見え方をし始めたのではないかと思うのだ。

このように安倍政権が「寝ていた衆愚」を目覚めさせてしまい、支持率の急激な低下へとつながったのだとすれば、今後、その影響は安保法案にとどまらないはずだ。

この先、参議院で60日以内に採決されない場合は否決されたと見なすことができる「60日ルール」を適用して、安保法案の成立を強行したとしても、その他に「戦後70年談話」「原発再稼働」「沖縄基地問題」「TPP」…と、政権には「強行突破」が必要になりそうな課題が目白押しだ。

一方で、支持率の回復を狙おうにも頼みの「株価」はギリシャの金融危機や中国バブル崩壊への懸念で大きな伸びは期待できないし、切り札の「拉致被害者奪還」というウルトラCも北朝鮮外交の手玉に取られ、今や手詰まり状態に見える…。

強行突破を繰り返せば、そのたびに支持率は落ち、「眠っていた衆愚」が少しずつ目を覚ます…。

これまで政治に無関心な人たちの「分厚い白紙委任状の束」によって支えられてきた安倍政権の足場は今、大きく揺らぎ始めているのかもしれない。

●川喜田 研(かわきた・けん)1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある