「安倍首相は安保法案制定に命をかけるが、それ以外のことは『よきに計らえ』で、官僚のやりたい放題を黙認している」と指摘する古賀氏 「安倍首相は安保法案制定に命をかけるが、それ以外のことは『よきに計らえ』で、官僚のやりたい放題を黙認している」と指摘する古賀氏

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、財務省がJT(日本たばこ産業)株の売却見送りを決定した本当の理由に迫る!

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6月22日、財務省は東日本大震災の復興予算に充てるために検討していたJT(日本たばこ産業)株の売却見送りを決定した。

JTは1985年に日本専売公社が民営化されてできた会社だ。そのため今も国が株の多数を保有し、財務省OBが会長、社長のポストを占めてきた。

しかしその後、保有株放出の方針が決まり、これまで4度にわたって売却が繰り返されてきた。13年の4次放出では2億5326万株が売りに出され、その売却益9734億円はすべて東日本大震災の復興財源に充てられた。

この方針はその後も堅持され、16年度から5年間に必要な復興財源6.5兆円の一部に繰り入れるべく、JT株の5次売却が検討されていたのだ。

ところが、ここにきて一転、財務省は売却の見送りを決めた。一体、何があったのだろうか?

その理由としては、ふたつ挙げられている。ひとつは、景気回復による税収増で、復興財源の確保にメドがついたから。もうひとつは、国が持つ株の割合が減って、JTに対する影響力が小さくなると、JTが割高な国産タバコを買わなくなって葉タバコ農家の保護ができなくなるというものだ。

しかし、これは大ウソだ。税収がUPしたとしても、財務省は「復興財源に使ってもよい」などと気前のいいことを言うようなところではない。

なぜなら財務省の最優先課題は、国の借金を減らして財政を健全化すること。国が売ると決めた保有株があれば、「早く売って、売却益を国庫に入れろ!」と、口を酸っぱくして要求するのが原則なのだ。なのに、財務省はJT株については、その原則を破ろうとしている。

日本の財政の将来より自分たちの利権?

また、農家の保護については、たばこ事業法でJTに葉タバコの全量買い取りが義務づけられているし、そもそも、ちゃんとした農業政策として保護策を検討すればよい。

では、なぜ財務省はJT株売却をやめたのか。

その理由は簡単だ。5次売却に踏み切れば、財務省は有力な天下り先を失いかねないからだ。

現在、国のJT株の持ち株比率は33%ほど。株主総会の特別決議には3分の2以上の賛成が必要であり、33%の株を持っていれば、会社の経営に大きな影響力を行使できる。当然、人事などにも強い発言権を持つことになるのだ。

ところが、もし5次放出に踏み切れば、国の持ち株比率は3分の1を大きく下回ってしまう。これではJTの会長、社長などに財務省OBを押し込むことが難しくなる。

日本政策投資銀行、国際協力銀行などと並ぶ、JTという最有力の天下り先を失いたくない――これが、財務省がJT株の売却見送りを決定した背景だ。

第2次安倍内閣になってから、財務省は国際協力銀行と日本政策金融公庫のトップのポストを民間人から財務省次官級OBの天下りポストとして奪還している。日本の財政の将来なんてどうでもよい。自分たちの利権のほうが大事だと言わんばかりの行動だ。

一方、安倍首相は安保法案制定に命をかけるが、それ以外のことは「よきに計らえ」で官僚のやりたい放題を黙認している。官僚と事を構えて、足を引っ張られるのが怖いのだ。

もちろん、そんな根も葉もないことは言うなと政府は反論するだろう。だが、もしこの見立てが違うと言うのであれば、政府は直ちにJT株の完全売却に踏み切ったらどうか。

(撮影/山形健司)

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955 年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011 年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)