中国史上最大級の軍事パレードが9月3日に北京・天安門広場で行なわれる。 

安倍首相は招待を見送り、不参加を表明したが、今回のパレードの1番のポイントは、開催日が「抗日戦争勝利記念日」(以下、抗日記念日)ということ。

それってなんか意味あるの?…という、〝そもそも〟の歴史からこの軍事パレードの正体を探ってみた。

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抗日記念日とは、その名の通り「中国が日本に戦争で勝利した日」のこと。

1930年代、中国は蒋介石(しょうかいせき)率いる「国民党」と毛沢東(もうたくとう)率いる「共産党」が内戦中だったが、日中戦争が始まると両党は一時休戦。協力して日本軍と戦った。

45年9月2日、日本はポツダム宣言に調印し、第2次世界大戦で正式に敗北を認めた。連合国側だった中国(国民党政府)は、その翌日を抗日記念日に定めた。しかし、直後の46年に両党は再び対立。結局、共産党が勝利を収め、国民党は台湾へと追われた。

そして49年、共産党は中華人民共和国を建国するが、国民党の決定を引き継いで9月3日を「抗日記念日」とした。

ということで、9月3日は中国にとっては大切な日…というのはわかった。ただ、これまで中国では計14回の軍事パレードが行なわれたが、開催日はすべて国慶節(建国記念日、10月1日)だった。なぜ今回は抗日記念日なのか? そのヒントは、抗日記念日の主役は人民解放軍というところにある。

中国問題に詳しい軍事ジャーナリストの古是三春(ふるぜ・みつはる)氏はこう解説する。

「13年3月より現在の習近平(しゅうきんぺい)体制になってから、中国政府は中国共産党の軍隊である人民解放軍に『国土を侵略から守っただけでなく、反ファシズム陣営の一翼を担い、枢軸国ブロックを打ち破った軍隊』という歴史的な権威づけをしようと試みてきました。そして、このプロパガンダの最も重要な節目を、戦後70年を迎える今年の抗日記念日に位置づけたんです。

なので、今回は過去のように単純に『反日』を煽(あお)ったりはしません。中国の国営テレビ局CCTVなどが『八路軍(*)に参加した日本人兵士』の訪問インタビューを放送したように、『反ファシズムの闘争は民族と民族の戦いではなく、国境を越えた民主的人士共同の戦い』として、それを主導した党と人民解放軍の権威を広めようとの宣伝戦略を立てています」

(*)日中戦争時に主に華北方面で活動した中国共産党系の軍隊。人民解放軍の前身のひとつ

国民の求心力を取り戻す?

ただ、その先には野望がある。中国の軍事筋はこう話す。

「中国が目指しているのは、経済、軍事ともに世界NO.1になること。すでに、中国はGDPでは世界第2位。また、去年10月には『アジアインフラ投資銀行』(AIIB)を立ち上げ、ヨーロッパ、アジア主要国を呼び込み金融世界でも帝国を形成しつつある。軍事面でも大規模なパレードで『中国はこんなに戦力がある』とアメリカに見せつけたくてしょうがないのだと思います」

ただし、こんな見方も。

「中国は南シナ海の人工島問題でアメリカとの緊張を高めています。今回のパレードで『中国とアメリカは、かつて反ファシズム陣営で共に戦った大国同志』という歴史を再確認して、表面上でもアメリカと関係改善を図りたいはずです」(前出・古是氏)

また今回のパレードは、人民解放軍への中国国民の求心力を取り戻す目的もあると、古是氏は言う。

「胡錦濤(こきんとう)前国家主席の頃から人民解放軍内部は、幹部が賄賂事件に絡むなど腐敗が深刻化していました。私は人民解放軍の退役軍人からこう聞いたことがあります。『自分たちが多大な犠牲を払って日本や国民党に勝利して(中華人民共和国を)建国させたのに、今や人民を解放するはずの軍は、人民の金銭を横取りする者が跋扈(ばっこ)するようになってしまった』

習主席は軍を含め、腐敗幹部の追及・摘発に力を入れていますが、それは党や人民解放軍に対する人々の信頼を回復し、より強い忠誠心を引き出したい、という思いがあるのでしょう」

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(構成/小峯隆生 取材協力/世良光弘)