国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。
*** 3年ぶりに戻る中国は、当時とは“違う国”になっているはずです。そこから中国、日本、そしてアメリカはどう見えるのか。今から楽しみです。
前号でお伝えした通り、約3年間過ごしたアメリカを離れます。次の活動拠点をどうするべきか熟考した結果、再び中国・北京で勝負することを決断しました。
アメリカのアカデミックな世界は、よく言えばシステムが成熟し、悪く言えば権威主義的な側面が強い空間でした。中国問題や内部事情に関する議論では、ぼくは決して劣っていないと自負していますが、それでも“公平な勝負”はさせてもらえなかった。
渡米後、向こうからアプローチしてきた中国問題研究者や対中政策関係者たちの多くは、ひと通りの情報や見方をぼくから引き出すと、サッと引いていきました。このしたたかさ、長年かけて構築されたシステムの強固さは、渡米前には想像できなかったことです。
一方、中国という国はよくも悪くもあらゆる事柄が発展途上で、システムよりもカオスが支配しています。もう一度、全人格をかけてカオスにぶつかり、突破することに挑戦したい。そのために中国へ戻ることにしました。
ただし、そこにあるのは、ぼくがかつて経験した胡錦濤(こきんとう)前国家主席時代の中国ではない。むろんアメリカでも情報は収集していましたし、在米の中国外交官たちとも意見を交換していましたが、やはり現場にいなければ微妙な空気感を察することはできません。
現国家主席の習近平氏は、前任者とはかなり違う人物に見えます。自らの手に権力を集中させ、トップダウンでトランスフォーメーションを主導するタイプの政治家。集団指導体制が確立しつつある近年の中国政界において、彼のような人物は異例であり、おそらく今後も出てこないでしょう。
だからこそ、ぼくはこれから間近で「習近平時代の中国」をウオッチングし、彼が何を考えているのか、この国をどこへ導こうとしているのかを感じ、読み解きたい。中国の改革事業にとって核心的に重要な習近平時代を現場で経験せずして「死ねない」。中南海にどこまでコミットできるのか。今からワクワクしています。
中国でも見据えるのは“アメリカ”
では、そのためにどんな機構と連携し、何をどこまで、どんな方法でやるのか。現時点ではまったくの白紙です。ぼくが北京へ戻ると知ったメディアや大学の関係者からコンタクトもありましたが、そういう面での判断は慎重にしたい。アメリカ帰りのぼくという人間を“利用”しようとする人もいるでしょうし、何より今こそイチからスタートを切らなければ、あえて中国をいったん離れ、アメリカで過ごした3年間の意味がなくなってしまいます。
ひとつだけ言えるのは、中国の地で勝負をしていく上で、その先に見据えるべきはやはり「アメリカ」だということです。
「日米関係」「日中関係」が別々に語られることの多い昨今ですが、真に必要なのは日本がどのような「日米中関係」のビジョンを持つのかという点です。アメリカと中国に挟まれた島国として、両大国の間で、主権国家としてどんなアイデンティティや生きざまを示していくのか――。それが問題の根本でしょう。
戦後日本は随所でアメリカの顔色をうかがってきた。中国も当然のように「アメリカの同盟国」という前提で日本と付き合っています。つまり、日中関係の未来を考えるためには、必然的に日本が同盟国であるアメリカとどう付き合っていくかを考えなければならない。そこが決まれば、中国との付き合い方もおのずと絞られてくる。最終的には「対中国」ではなく「対アメリカ」なのです。
ぼくもまた、アメリカという壁にはね返された人間です。この悔しい思い、みじめな気持ちを忘れずに、中国でもう一度勝負してきます。日本人として「アメリカ」という存在を無視できるというなら、その理由を逆に教えて!!
●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェロー、ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員を経て、この夏から再び北京へ。最新刊『中国民主化研究 紅い皇帝・習近平が2021年に描く夢』(ダイヤモンド社)が発売中。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」も活動中!